2015 Fiscal Year Research-status Report
脳放射線壊死が脳腫瘍の増殖・浸潤能に与える影響の解明:放射線治療は再発の温床か?
Project/Area Number |
15K21510
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Research Institution | Osaka Medical College |
Principal Investigator |
弘田 祐己 大阪医科大学, 医学部, 非常勤医師 (80707331)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 遅発性放射線障害 / グリオーマ / X線 / 腫瘍幹細胞 / miRNA / 腫瘍再発 |
Outline of Annual Research Achievements |
<目的と方法> 放射線に暴露した正常脳組織に生じる病態生理学的変化が腫瘍細胞形質に与える影響を検討する目的で、Fischer ratの右大脳半球選択的にX線を照射し、その3ヶ月後に1x105個のグリオーマ細胞(F98)を定位的に脳内移植し脳腫瘍モデルを作成する実験を行った。Group 1:右大脳半球にX線65 Gyを照射したラットの右大脳半球(照射半球)に、F98を定位的に移植した群。Group 2:右大脳半球にX線65 Gyを照射したラットの左大脳半球(非照射半球)に、F98を同数移植した群。Group 3:Sham irradiationを行い3ヶ月が経過したラットの右大脳半球にF98を同数移植した群(コントロール) 上記の3群について生存解析を行い群間の比較を行った。本実験系の肝は、移植する腫瘍細胞は直接X線に暴露されておらず、あくまで移植した腫瘍が増殖する場の生理学的環境から受ける影響だけを抽出することに焦点を絞っている点である。 <結果> Group1およびGroup2は、Group3(コントロール群)と比べ統計学的に有意に生存期間が短かった(P=0.0012, P=0.0033)。特筆すべきはGroup2もGroup3に比べて生存期間に有意な差を認めたことである。これは照射野外に存在する脳組織においても、X線の照射後に腫瘍の増殖を促進する方向に働く生理学的変化が間接的に誘導されている可能性を示しており、本実験結果は悪性脳腫瘍に対する脳放射線治療後の腫瘍再発、特に放射線照射野外からの腫瘍再発の概念に一石を投じる結果であると考えている。現在その病態生理学的メカニズムの詳細を解明すべく解析を進めいているところであるが、X線照射脳では非照射脳と比べてMir18a, Mir20a, Mir-92, Mir381といったグリオーマの増殖を促進する方向に作用するmiRNAの発現が上昇していることが本年度の研究において判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
腫瘍が放射線被爆によって受ける直接的な影響ではなく、放射線治療時に腫瘍周囲に存在した正常脳組織が被曝することによって生じた生理的・病理学的変化が、間接的に残存腫瘍の細胞形質に与える影響を検討することが本研究の目的であり、これまでに実施したIn vivo(動物実験)の実験の結果は「X線に被曝した正常脳からの間接的影響が、悪性グリオーマの増殖能・浸潤能・播種能の亢進に寄与している」という我々の研究仮説支持するものであり、そのメカニズムに関する解析結果も過去に報告が無い新たな知見が既に得られている。(上述) しかしながら上述の動物実験の再現性の確認に想定していたよりも長い実験期間を要したため、研究計画書に記載した他の細胞株を用いた実験の実施が当初の計画よりも遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は「X線被曝によって正常脳組織に生じる生物学的変化が、悪性グリオーマの増殖能・浸潤能・播種能の亢進にも間接的に寄与している」という研究仮説を証明し、遅発性脳放射線障害が単に正常脳に障害をもたらすだけに留まらず、腫瘍再発時の腫瘍形質を修飾することで個体の生命予後にも影響を及ぼしうることを明らかにする。 今後、悪性グリオーマ幹細胞株(bRiTS-GFP:B6マウス悪性グリオーマ幹細胞株)をX線照射後のマウス大脳半球に移植する実験を行い、X線照射を行っていない個体の脳に同数の腫瘍を移植したものをコントロールとして、以下の6つの検討項目について両群の比較を行うことで、被曝した正常脳が脳腫瘍(X線照射後移植)の形質に与える影響について検討を行う:1)腫瘍増殖能、2)腫瘍浸潤能、3)腫瘍血管新生能、4)腫瘍内遺伝子発現(microRNAを含む)の網羅的変化、5)腫瘍ゲノム・メチル化状態の網羅的変化、6)移植腫瘍に対する中枢神経系免疫の反応(各種免疫細胞分画の割合と単位組織体積当たりの絶対数・各種ケモカインの発現量)。 またマウス脳内で形成された腫瘍を摘出してsingle cellに分離した後に、100個・1,000個・10,000個ずつを再度nude mouseの脳内へと移植し、移植個体の生存分析を行うことで腫瘍幹細胞に与える生物学的影響についても検討を行う。
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Causes of Carryover |
主たる研究仮説を証明するための動物実験結果の再現性の確認に想定以上期間を要したため、研究段階の一部が次年度に持ち越しになったことが次年度使用額が生じた主な理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
再現性確認実験においても本研究における仮説を支持する結果が得られたため、研究計画の変更はせず当初の研究計画に従って引き続き研究を遂行していく予定である。
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