2015 Fiscal Year Research-status Report
薄膜干渉型ナノ構造基板を用いた腫瘍マーカーの高感度ラマン分光バイオセンシング
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15K21532
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
安田 充 関西学院大学, 理工学研究科, 博士研究員 (20742307)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ラマン / 蛍光 / 励起光 / 光学干渉 / 薄膜 / 抗原抗体反応 / 腫瘍マーカー / バイオチップ |
Outline of Annual Research Achievements |
Ag基板上にAl2O3のナノ薄膜を形成した薄膜干渉基板を用いて、蛍光増強と基板上で反射した励起光の関係について調べた。蛍光分子Rhodamine Bを堆積させた薄膜干渉基板上に励起光を入射し、バンドパスフィルタで様々な波長の蛍光を検出した。検出する波長が長くなるにつれて、最大蛍光増強をもたらすAl2O3膜厚は厚くなり、これらの膜厚は光学干渉理論とほぼ一致した。また蛍光の波が強め合う膜厚で蛍光が増強したことから、蛍光増強には蛍光の光学干渉が関与していることがわかった。 一方、励起光の波長と検出する蛍光の波長の幅が大きいほど、蛍光の増強度が低下する現象が観測された。これは検出する蛍光波長が長くなるにつれて、励起光が光学干渉により弱め合ったことが原因である。同様の結果がCy3などの他の蛍光分子でも得られた。したがって、蛍光増強は蛍光と反射した励起光の両方の光学干渉により起きることが明らかとなった。 つぎに、ラマンシフト0~1800 cm-1の範囲でラマン散乱光強度が最大となる最適なAl2O3膜厚を光学干渉理論により調べたところ、約80~90 nmが最適であることがわかった。そこで、80 nmのAl2O3膜厚をもつ薄膜干渉基板上に、モデルタンパク質としてBovine serum albumin (BSA) をスポットし、ラマンスペクトルを測定した。1,000 cm-1付近におけるBSAの検出感度は石英ガラスに比べ、2桁向上した。また抗原抗体反応を介してあらかじめBSAとBSA抗体の複合体を形成させた溶液を基板上にスポットしたところ、検出感度が2桁向上した。さらに、肝臓癌の腫瘍マーカータンパク質α-fetoprotein (AFP) の検出、およびAFPとAFP抗体の複合体の検出でも同様の結果が得られたことから、薄膜干渉基板を用いたタンパク質の高感度ラマン分光検出が実証できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
蛍光増強における反射した励起光と観察される蛍光との関係、この結果を基にラマン分光に最適なAl2O3膜厚の決定、その膜厚をもつ薄膜干渉基板を用いたタンパク質の高感度ラマン分光検出を実証することができた。そのため、当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
あらかじめタンパク質とそれに対する抗体との複合体を形成させた溶液を基板上にスポットする方法では、石英ガラスに比べ、2桁の検出感度向上を達成した。しかし、この方法は一般的ではないため、基板上に固定化した抗体にタンパク質を結合させる従来法を用いてタンパク質を検出する。 一方、比較用の石英ガラスでは、石英ガラスそのものの自家蛍光により、純粋なタンパク質のラマンスペクトルを得ることができなかった。特に、自家蛍光が原因で、データとして出力されるラマン散乱光強度が相当高い値を示したため、薄膜干渉基板でのラマン散乱光強度と比較することが困難であった。これは薄膜干渉基板は自家蛍光が少なく、ラマン分光に適した基板であるともいえ、薄膜干渉基板のラマン分光における利点が露になった点でもある。しかし、ラマン分光への応用という面においては、一般的に用いられる石英ガラスとの比較によるラマン散乱光強度の増強度が重要であるため、今後は、より自家蛍光の小さい石英ガラスを購入し、タンパク質の検出感度に加え、タンパク質検出におけるラマン散乱光強度の増強度を調べる。
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Causes of Carryover |
薄膜干渉基板上で反射した励起光と蛍光増強の関係を調べるために、蛍光波長の異なる量子ドットを複数購入する予定で蛍光試薬類を多めに計上した。しかし、量子ドットを用いなくても、反射した励起光と蛍光増強の関係を明らかにできたため、当初予定よりも差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
石英ガラスでは自家蛍光が予想以上に検出されたため、より自家蛍光の少ない高価な石英ガラスを購入するために使用する。
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