2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K21544
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Research Institution | Kibi International University |
Principal Investigator |
大下 浩司 吉備国際大学, 外国語学部, 准教授 (40412241)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 非破壊分析 / 油絵具 / レーキ顔料 / 三次元蛍光スペクトル / 蛍光X線 |
Outline of Annual Research Achievements |
絵画に使用される色材の同定は、技法の解明や絵画の保存、加筆・修復箇所の判別、制作年代の推定などに役立つ。油彩画に用いられる色材には顔料とレーキ顔料がある。顔料は蛍光X線分析法により非破壊同定できるが、レーキ顔料を非破壊同定するための分析法は未だ開発されていない。このため、本研究は、レーキ顔料を非破壊同定するための分析法の開発を目指した。 レーキ顔料は金属イオンに染料が結合した有機金属錯体である。これまでの研究から、染料には蛍光するものがあり、レーキ顔料にも微弱ながら蛍光するものがあるとわかっている。このことからレーキ顔料の金属部分を蛍光X線分析し、この染料構造を三次元蛍光スペクトル分析すれば、レーキ顔料を非破壊同定できると着想した。しかし、メートルサイズの油彩画は市販の蛍光光度計の試料室に入らない。この課題を解決するために、励起光用と蛍光用の光ファイバーを取り付けた蛍光光度計を開発し、この光ファイバーを通して光源からレーキ顔料に励起光をあて蛍光を検出器に導き、レーキ顔料の三次元蛍光スペクトル(励起波長、蛍光波長、蛍光強度をxyz軸にプロットしたグラフデータ)を測定できるようにした。 本分析装置を用いて、まず蛍光強度の強い染料を測定した。この結果、期待通りの三次元蛍光スペクトルを得た。次に、種々のレーキ顔料の染料構造を三次元蛍光スペクトル分析し、この金属部分を蛍光X線分析して、レーキ顔料を非破壊同定するための基礎データを蓄積した。これらの基礎データから、金属イオンに染料が結合しているレーキ顔料は蛍光強度が弱いものの、蛍光するレーキ顔料については、本分析装置により三次元蛍光スペクトルを測定できることがわかった。 以上、平成27年度には、当初の予定通り、蛍光光度計の試料室に入らない油彩画に使用されるレーキ顔料の三次元蛍光スペクトルを測定し非破壊同定できる分析装置の開発に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度の平成27年度は、蛍光光度計の試料室に入らないメートルサイズの油彩画に使用されたレーキ顔料を非破壊同定するための分析装置の開発が課題であった。この課題を解決するために、蛍光光度計の光源から励起光をレーキ顔料にあて、レーキ顔料から生じる蛍光を検出器におくるための光ファイバーを蛍光光度計に取り付ける改良をおこなった。この改良は、蛍光光度計の性能が犠牲にならないよう工夫した。光ファイバーは、紫外線~可視光線の光を励起光に用いるため、紫外線を吸収しにくく透過しやすい材料のものを用いた。この光ファイバーの取り付けに伴い試料室内も改良した。光ファイバーを蛍光光度計の試料室に取り付けたことにより、試料室内で励起光や蛍光が迷光する恐れがあった。このため試料室内で迷光しないよう改良した。また、光源から光ファイバーに励起光が入る際や光ファイバーから検出器に蛍光が入る際の集光性を高める工夫をした。さらに、赤色のレーキ顔料は長波長の蛍光を発光する可能性があるため、長波長の蛍光も検出できるホトマルを用いることとした。これらの改良により、レーキ顔料の微弱な蛍光を検出し三次元蛍光スペクトルを測定して、レーキ顔料を非破壊同定できる分析装置を開発できた。 以上、諸課題に対して適切に対処し、当初の予定通りレーキ顔料を非破壊同定できる分析装置を開発したことから、おおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
開発した分析装置を用いてレーキ顔料を非破壊同定する際、油絵具に添加された物質がスペクトル干渉する恐れがある。このため、レーキ顔料の非破壊同定の妨げとなる添加物に起因するスペクトル干渉の課題を解決する。 油絵具は、金属や非金属の化合物からなる顔料や有機金属錯体のレーキ顔料に、界面活性剤、体質顔料、樹脂、乾性油などの添加物が加えられ調製される。これらの添加物の反射・吸収・蛍光などの光特性が、レーキ顔料の三次元蛍光スペクトル測定に影響を及ぼす可能性がある。油絵具の添加物として、イオン性や非イオン性の界面活性剤、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウムなどの体質顔料、天然高分子化合物の樹脂や乾性油などがある。これらの添加物がレーキ顔料の三次元蛍光スペクトル測定に与える影響を検討する。 樹脂や乾性油の光特性を把握するためには、詳細な検討を要する。樹脂は複雑な化学構造をした天然高分子化合物であり、天然物には様々な不純物が含まれることがある。樹脂の中には短波長の光を吸収しやすいものがあり、紫外線を吸収し青~緑色の蛍光を発する可能性がある。この場合、青~緑色のレーキ顔料も同色の蛍光を発することが予想される。このため、樹脂の蛍光特性を検討して、レーキ顔料の三次元蛍光スペクトル測定時のスペクトル干渉に対処しなければならない。乾性油は、顔料に含まれる金属を触媒として過酸化物を経てヒドロ過酸化物を生じ、ラジカル反応により架橋し固化する。固化した乾性油の構造は複雑であり、固化過程で生じた夾雑物が蛍光を発すると予想される。このため、固化した乾性油の蛍光特性も検討して、スペクトル干渉に対処する必要がある。 以上の通り、油絵具に含まれる添加物の反射・吸収・蛍光などの光特性についての基礎データを蓄え、スペクトル干渉の課題を解決して、精度、感度、確度良くレーキ顔料を非破壊同定できる分析法を開発する。
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