2015 Fiscal Year Research-status Report
民主過程による先住民の権利保障の可能性―カナダの議論を参考にして―
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15K21559
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
守谷 賢輔 福岡大学, 法学部, 准教授 (40509650)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 先住民 / 先住民の権利 / 民主過程による権利保障 / カナダ / 土地権 / 自治権 / 憲法 / 協議の義務 |
Outline of Annual Research Achievements |
Nisga'aネーションは、政府と協定(agreement)を締結することで自治政府を設立した(Nisga'a最終協定)。平成27年度は、この協定の締結に至る背景を探った。まず、Nisga'aネーションが原告となり「土地権(aborigianl title)」の存在の確認を求めたCalder判決(1973年)を読み直した。 この判決は、従来の政府の先住民問題の取り組みに大きな転換を迫るものである点において、Nisga'aネーションのみならず、カナダ先住民全体にきわめて大きな影響力を有しており、今もなお、この判決の意義を検討し、また再定位する学説の試みがある。この点に関する文献を読了した。 Calder判決の現代的意義に関しては種々の議論がある。「土地権」の保障が一定程度の先住民の自治権の保障と結びつけて論じる学説があり、それが協定の締結を下支えする理論的基礎を提供しているが、土地の使用に限定される点や土地に対して先住民が有する独自の観念をくみ取ることの困難さも示している。 また先住民が「土地権」の存在を証明していなくとも、政府は当該土地の開発等をする場合には、先住民と協議し便宜を図る義務がある、との判断を示したHaida Nation判決(2004年)等の一連の判決が、とりわけブリティシュ・コロンビア州の先住民との協定の交渉を強く促す要因となっている。 このように司法判断が協定の締結の背景にあるが、協定で保障されている土地あるいは自治権が及ぶ範囲は、Nisga'aネーションが主張してきたものをカバーしているとはおよそ言い難いものでもある。民主過程による先住民族の権利保障の限界と示しているとも言いうるが、当該先住民の交渉力に依存している部分も多くあり、それをいかに担保するかが他の先住民集団においても課題となろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Nisga'a最終協定の締結の背景を探る作業に予想以上の時間を割かざるを得ず、進捗状況に遅れがある。Calder判決をはじめとする「土地権」に関する一連の判決の意義を再考する必要性を強く感じ、こうした作業に多くの時間を費やした。 もっとも、こうした研究を通じて、司法過程における先住民の権利保障の意義と限界、民主過程による先住民の権利保障の意義と限界の関係、またこれらに関連する諸論点を掘り下げて考察することで、カナダ先住民をめぐる諸問題を俯瞰的にみることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の研究を踏まえ、Nisga'aネーションの自治政府の権利保障の程度、限界や実態等を探る。また、先住民のみのNisga'aネーションの自治政府とは異なり、人口の多くが先住民(イヌイット)であるヌナブト準州の統治構造、権利保障の程度、限界や実態等を研究する。そして、Nisga'aネーションの自治とヌナブト準州の自治を比較し、双方の意義と限界を明らかにすることを試みる。 自治政府の実態については現地に赴かなければ分からない点も多いことから、8月に現地実態調査を行う予定である。双方の自治政府に訪問することが理想であるが、Nisga'aネーションの自治政府もヌナブト準州も国内移動だけでもかなりの時間を要するため、スケジュールによってはどちから一方に選択せざるを得ない場合もありうる。 Nisga'aネーションの自治政府にはかつて訪問しインタビューをした経験もあり、自治政府の職員とメールで連絡することも可能であるが、ヌナブト準州には行ったことがなく、また現在、直接コンタクトをとることのできる職員はいないため、ヌナブト準州での現地実態調査を優先する。もちろん、事前にヌナブト準州の関係者と連絡をとり、インタビューの準備をして訪問する。
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Causes of Carryover |
国内および海外出張を予定していたが、スケジュールの都合で中止したため繰越金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰越金は平成28年度に予定している海外出張の旅費に充てる予定である。
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