2016 Fiscal Year Research-status Report
ケイ素欠乏がアフリカのイネ生産に及ぼす影響の解明とケイ素管理技術の開発
Project/Area Number |
15K21614
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Research Institution | Japan International Research Center for Agricultural Sciences |
Principal Investigator |
辻本 泰弘 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター, 生産環境・畜産領域, 主任研究員 (20588511)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | イネ / ケイ素施肥 / マダガスカル / 窒素利用効率 / 風化土壌 |
Outline of Annual Research Achievements |
イネは多量のケイ素を体内に蓄積して病害への耐性を高める。これまで、アフリカ広域に分布する熱帯の風化土壌を対象に、ケイ素欠乏とイネの病害発生および収量との関係を評価した事例はない。そこで、マダガスカル中央高地で、土壌養分特性および施肥履歴の異なる35地点のイネ作付圃場を対象に、窒素とケイ素を組み合わせた4水準の施肥処理を設定して、ケイ素施用の効果を検証した。その結果、効果の圃場間差異は大きいものの、ケイ素を施用することで、窒素の利用効率および籾収量が改善する傾向にあること、ケイ素の施用効果は、特に窒素施用条件下で高く、最大で0.8t/haの籾増収が得られることが示された。一方で、いずれの試験圃場でも顕著ないもち病の発生がみられず、出穂期前後のいもち病害程度に有意な処理間差はみとめられなかったことから、ケイ素施用による増収効果は病害の抑制効果以外の要因が関係していることが示唆された。この結果は、ケイ素欠乏の課題が顕在化する可能性のあるアフリカの主要なイネ生産地域でケイ素施肥の定量的効果を明らかにした極めて有益なデータといえる。また、本試験を含むアフリカ広域の94地点の農家圃場から採取した稲籾、もみ殻、および稲わらのケイ素分析を実施し、従来の稲わらのケイ素濃度よりも評価が簡便と考えられる稲籾、もしくはもみ殻のケイ素濃度を基準とした新たなケイ素欠乏指標を検証するためのデータセットを構築した。得られた暫定的成果は、2016年度土壌肥料学会で公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H27年度とH28年度に実施した2か年の試験を通して、ケイ素の施用により収量もしくは窒素利用効率が改善する圃場が複数みられ、熱帯の風化土壌におけるケイ素施用の効果を現地の農家圃場で示す有益な実証データを得るとともに、その圃場間差異の要因を解析するために十分なデータセットを集積することができた。一方で、いずれの試験圃場も顕著ないもち病の発生がみられず、想定していたいもち病害の処理間差は観察されなかった。また、本試験およびこれまでアフリカ各国で採取した稲籾、もみ殻、稲わらのケイ素の濃度の分析を進め、新たな評価指標の開発に向けた関係解析を進めている。アンタナナリボ大学放射線研究所と新たに共同研究協定(MoU)を締結し、フランス農業開発研究国際協力センター(CIRAD)とも複数回の現地圃場見学会や研究集会を通して意見交換を実施するなど、当該地域での国際共同研究体制を強化した。これまでの暫定的な結果を国内学会で発表するなど、概ね予定通りの進捗状況といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度の雨季作(12月~)に実施したマダガスカル中央高地に分布する18地点の農家圃場試験について、収量調査と収穫されたサンプルの分析を行い、施肥処理の違いが稲体の収量、窒素とケイ素の吸収量、および、稲籾、もみ殻、稲わらへの分配に及ぼす影響を解析する。その上で、2か年のべ35地点にわたる施肥試験の結果と、土壌分析値および農家の聞き取り調査から得られた栽培法に関するデータを用いることで、オキシソルに代表される風化土壌地域において、ケイ素施肥がイネのケイ素欠乏改善および生産性に及ぼす影響とその圃場間差異の要因について定量的に明らかにする。さらに、本調査とこれまでアフリカ各国で集積した稲籾、もみ殻、および稲わらのケイ素分析の結果を統合して、従来の稲わらのケイ素濃度よりも評価が簡便と考えられる稲籾、もしくはもみ殻のケイ素濃度を基準とした新たなケイ素欠乏指標の有効性を検証する。得られた成果は、2017年度土壌肥料学会、ならびに論文として国際誌に公表する。
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Causes of Carryover |
限られた予算配分の中で、調査地への渡航回数を次年度以降も確保するために、可能な限りにおいて、次年度への繰越額を残した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
調査地であるマダガスカルへの渡航費に充てる(収量調査実施のため、2017年4月にマダガスカルへに渡航し、繰り越し経費を使用済み)
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Research Products
(2 results)