2020 Fiscal Year Research-status Report
中国・農民工支援NGOの活動に見る新時代の社会運動
Project/Area Number |
15K21642
|
Research Institution | Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization |
Principal Investigator |
山口 真美 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 新領域研究センター ジェンダー・社会開発研究グループ, 研究員 (60450540)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 中国 / 労働運動 / 農民工 / 社会運動 / 労働者 / 労働NGO / 労働災害 / ストライキ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、中国で近年注目される草の根NGO と呼ばれる新しい社会組織の成り立ちと取り組みから、新世代の労働者(農民工)のニーズと、受け入れ都市の知識人と中間層を中心とする市民社会の変化を探ろうとするものである。政治的な制約から社会運動が起きにくいと考えられる中国において、前者は実質的に労働運動、後者は市民社会の自発的な社会運動の役割を担っているというのが本研究の仮設である。本研究では、中でも出稼ぎ労働者支援を行う中国の草の根NGO に注目し、その機能と社会的な役割を考察する。 本研究プロジェクトは2015年以降、途中研究代表者の休職により2016-2017年度に2年間の研究中断時期を挟み、2018-2020年度にかけて計4年間、実施してきた。その間、中国の政治経済状況と言論環境は急変し、特に2015年末以降、本研究が対象とする労働NGOは政治的弾圧の最前線に立ってしまった。そのため、本研究をめぐる中国国内の現状は2015年を最後に進展していない。幸い、2015年に実施した現地調査と、それ以前の研究代表者による現地調査の成果があったため、それを下に2018-2019年度にかけて、「新興国の新しい労働運動」研究会(アジア経済研究所。太田仁志主査)のメンバーと共に労働運動論の枠組みに照らして分析した。その成果は、太田仁志編『新興国の「新しい労働運動」―南アフリカ、ブラジル、インド、中国―』の1章として、「中国の2つの『新しい労働運動』―1989年天安門事件と2000年代―」として今春、出版された。 中国の国内状況とコロナ禍の両方で、昨年来現地調査が実施できない状況が続いているため、労働者による労働運動の海外での展開として、日本の中国を中心とする外国人労働者の就労と生活、およびそれに伴う社会運動についての調査研究を現在実施中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概要欄で述べたように、本研究の研究対象である労働NGOの活動が、現地の言論政治情勢のため2015年末以降、基本的に止まってしまった。労働NGOは組織としても抹消され、国内的には活動の継続ができない状況が続いている。そのため、本研究プロジェクトの成果として1990年代以来、2015年時点までの約20年間の底辺労働者をめぐる中国の社会運動としての労働NGOの活動の軌跡として、拙稿「中国の2つの『新しい労働運動』―1989年天安門事件と2000年代―」を執筆できたことは一区切りといえる。 残る研究期間は、当初から海外に活動拠点をおいて中国の労働運動を観察、支援している労働NGOの活動状況と、日本国内の外国人労働者とその家族としての中国人労働者の就労と生活研究にシフトし、新たな社会運動の形態について調査研究を模索している。
|
Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症の流行により海外渡航は難しい状況が続く。そのため、海外に展開する中国の労働運動支援団体研究としては、香港に拠点がある労働NGOの発信するホームページやSNS(主にツイッター)情報を注視することが中心になる。 日本国内の外国人就労者と帯同家族については、研究代表者が参加する所内研究会「労働力から家族へー在日外国人世帯の雇用と生活ー」の一環として、日本で就労、滞在する外国人の状況を主に支援団体の発信する雑誌やメールから情報収集している。今年度中に、中国から日本への渡航、就業斡旋と日本での就労と生活の現状及び問題点について、既往研究と最新の状況を把握し整理した原稿を準備したい。それを、来年度以降の新しい研究につなげる予備的研究としたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行により、当初予定していた海外への渡航を伴う現地調査が実行不可能になった。それに伴い、本研究課題の研究も文献サーベイやWebによる情報収集を中心にしたものにならざるを得ず、調査出張に伴う出費費目が全額未使用であるため。
|