2021 Fiscal Year Research-status Report
中国・農民工支援NGOの活動に見る新時代の社会運動
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15K21642
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Research Institution | Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization |
Principal Investigator |
山口 真美 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 新領域研究センター ジェンダー・社会開発研究グループ, 研究員 (60450540)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 中国 / 労働運動 / 農民工 / 社会運動 / 工会 / 日本 / 技能実習生 / 外国人労働者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、中国の都市部において農村出身労働者(農民工)の権利保護と支援を行う草の根NGO(労働NGOと呼ばれる)に注目し、その機能と社会的な役割を考察することにある。しかし、中国国内の労働NGOは習近平政権下で社会的統制が強化されるとともに厳しい弾圧を受け、2015年末の大弾圧以降すべての組織が登録を抹消され、一切の活動ができなくなっている。そこで、本研究は1990年代後半から、2015年末の弾圧までの労働NGOの発生、活動の展開をまとめた論文を2020年にまとめ、それ以降は留学、研修、技能実習などの形態をとって日本で就労している中国人労働者を含む日本の外国人労働者の就労と生活をめぐる社会運動の研究を展開している。 本年度は新型コロナ感染症の収束状況により、中国調査と研究が再開できれば、全国総工会と呼ばれる中国の官製労働者組織の側面から労働者の権利保護や労働NGOとの関わりについて歴史も含めて検証する作業を実施したい。ただし、中国の入国制限措置により、現地調査はまだ困難なことが予想されるため、その場合は以下の日本における調査研究を継続することとする。 日本における外国人の就労と生活をめぐる研究として、日本で居住、就労する中国系ニューカマーに関するコミュニティ研究と、中国人に限らず外国人就労者及び住民の社会・経済的ニーズとそれを支える社会運動、および自治体による外国人住民受け入れ支援の2分野について、文献調査と状況が許せば初歩的な現地調査を実施したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中国国内の政治的環境変化により、研究対象であった労働NGOが抹消され活動できなくなるという事態があった。加えてコロナ禍となり、中国調査のみならず日本国内での調査もままならなくなってしまった。しかし、【研究実績の概要】に示したような研究課題の調整を行い、これまでの研究をまとめるとともに、国内でできる研究にシフトした。その範囲ではおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
中国国内の調査の延長としては、労働NGOが抹消されてしまったため、新しい調査はできない。そこで、コロナ渦が収束すれば官製労働組合である工会組織サイドからみた草の根労働NGOや労働者の権利保護について現地調査を実施する。しかし、中国の入国制限が厳しく、外国から渡航しての調査は今年度内は困難な可能性が高い。 そのため、今年度も主に日本国内でできる調査の実施が現実的であろうと考えている。日本は深刻な少子高齢化のため、労働力不足に直面し、外国人労働力に頼らざるを得ない現状にある。目下中国を中心とするアジア諸国から多くの留学生、技能実習生に加えて新しい在留資格の「特定技能」を新設して外国から労働者を招聘しようとしている。そうした外国人の日本社会への定着と定住は確実に進展しており、中国出身者はその中でも最大のエスニックグループを形成している。また、中国人コミュニティは質的にも多様であり、戦時中や戦後に来日した戦争由来のオールドカマーから、日中国交正常化後に来日したニューカマー研究まで、多くの研究蓄積も存在する。本研究は第1に、こうした在日外国人のコミュニティ研究のうち、中国人コミュニティの研究を文献整理し、新たな研究課題を模索する。第2に、日本における在日外国人の就労と生活を支える支援活動をレビューし、日本で働く外国人労働者の仕事と生活がどのようなニーズと問題を抱え、その解決がどのように模索、実現されているのか(またはいないのか)、労働運動、市民運動などの社会運動に注目しつつまとめる。成果の一部は、年度末に所属先の調査研究報告書として執筆する。
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Causes of Carryover |
本研究は、中国国内における社会的統制の強化により、当初予定した調査出張が実施できず、旅費が大幅に未使用となった。また、一昨年度来の感染症拡大のため、国内外ともに現地調査が不可能な状況となっている。そのため、資料や機器の購入中心の支出となっており、本研究の支出の大半を占めていた旅費部分の予算が未消化となっているため。 今年度、出張による現地調査や国内の近隣地域でのフィールドワークが可能となればぜひ実施したい。その他は主に資料購入費として利用したい。
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