2016 Fiscal Year Research-status Report
環境水中農薬の動態予測シミュレーションとモニタリングに関する研究
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15K21643
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Research Institution | National Institute of Health Sciences |
Principal Investigator |
小林 憲弘 国立医薬品食品衛生研究所, 生活衛生化学部, 室長 (10450660)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 農薬 / 水環境 / 環境動態 / シミュレーション / 分析 / モニタリング |
Outline of Annual Research Achievements |
環境水中(水路または河川の淡水域)に農薬が流入した際に,対象水域内の農薬濃度を予測可能な化学物質運命予測モデルを構築し,構築したモデルを用いて環境動態シミュレーションを行った。シミュレーションは,淡水域での移流・拡散過程および対象物質の物性を考慮し,下流域での各農薬濃度を3次元的に予測した。 平成28年度は,上記の化学物質運命予測モデルを一部改良して適用するとともに,平成27年度に計算を行った対象農薬リスト掲載農薬類120物質に加えて,要検討農薬類16物質、その他の農薬類84物質,除外農薬類14物質を合わせた合計234物質を対象として,模擬的な河川水域を想定して各農薬濃度の予測を行った。化学物質運命予測モデルでは予測対象物質の分解速度および分配係数等のパラメータが必要なことから,これらのパラメータを検索・収集するとともに,シミュレーションによって各農薬の残存率を算出して比較した。その結果,計算対象とした159農薬のうち42農薬が残存率50%を超え、その中には対象農薬リスト掲載農薬類が24、要検討農薬類が1、その他農薬類が14、除外農薬類が3含まれていた。本シミュレーションの結果から,検査対象水域内において残存率の高い農薬が一定量使用されている場合は、検査対象とする必要性があると考えられた。 また,環境水中の農薬類のモニタリング調査を行うため,141農薬のLC/MS/MS一斉分析法を開発した。その結果,水道水への添加回収試験において良好な回収率および併行精度が得られ,目標値の各農薬の目標値の1/100超1/10以下の濃度では114~117物質が,目標値の1/100以下の濃度においても105物質が妥当性評価ガイドラインの真度(70~120%)および併行精度(≦25%あるいは≦30%)の目標を満たした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は,平成27年度に構築した化学物質運命予測モデルの改良を行うとともに,平成27年度に計算を行った対象農薬リスト掲載農薬類120物質に加えて,要検討農薬類16物質、その他の農薬類84物質,除外農薬類14物質を合わせた合計234物質を対象物質として選定し,これらの物質の水中半減期(水中光分解速度),土壌吸着係数(log Koc)等の物性パラメータを収集した。収集したパラメータを化学物質運命予測モデルモデルに入力し,計算対象地域として幅30 m×深さ5 mの模擬的な河川を設定し,流入地点から30km下流地点における各農薬の残存率を算出して比較した。 計算対象とした159農薬のうち42農薬が残存率50%を超え、その中には対象農薬リスト掲載農薬類が24、要検討農薬類が1、その他農薬類が14、除外農薬類が3含まれていた。今回は全ての農薬の流入量を一定値(10 t/year)としたため、各農薬の残存量は現実的な数値ではないが、残存率が高い農薬が水域内に流入した場合に、下流域まで輸送される可能性が高いと考えられる。したがって、検査対象水域内において残存率の高い農薬が一定量使用されている場合は、検査対象とする必要性があると考えられた。 LC/MS/MS一斉分析法の検討では, 141農薬を対象に,前処理を行わずにLC/MS/MSに直接注入して一斉分析できるかどうかを検討した結果,水道水への添加回収試験において良好な回収率および併行精度が得られ,目標値の各農薬の目標値の1/100超1/10以下の濃度では114~117物質が,目標値の1/100以下の濃度においても105物質が妥当性評価ガイドラインの真度(70~120%)および併行精度(≦25%あるいは≦30%)の目標を満たした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は,本モデルを水道水中農薬の検査計画の策定に利用可能なものとするために、モデルの計算条件や各農薬の物性値をより現実的な値に修正していく。 また,シミュレーションによって検出可能性が高いと予測された上位100農薬程度を,環境水モニタリングの対象物質として選定し,本研究では,ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC/MS)および液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析計(LC/MS/MS)を用いた一斉分析により,これらの農薬を測定する。そのため,これらの分析法の分析条件についても検討を行う。具体的には,クロマトグラムにおけるピークの検出・形状,検量線の直線性,データの再現性を検証し,対象物質を一斉分析可能な分析条件を作成する。 さらに,最適化された分析条件を用いて環境水中の対象農薬のモニタリングを行う。農薬モニタリングにおいては,日本全国の水道事業体に協力を依頼し,各事業体における水道原水取水口での水道原水および浄水を採取し,申請者の研究室に試料を送付してもらうことで,全国の水道原水および浄水を分析する。また,全国の地方衛生研究所にも協力を依頼し,日本各地の環境水を試料として入手する。 農薬モニタリングによって,水質管理目標設定項目における測定対象農薬リストに掲載されていない農薬類が検出された場合は,論文発表等を通じて,これらの農薬のモニタリングの必要性について日本全国の水道事業者に周知する。
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Causes of Carryover |
投稿中の論文の掲載が遅れたため,別刷印刷費用等が次年度の請求となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
モニタリング調査に掛かる標準品・試薬代および学会発表・論文投稿に掛かる費用として支出する。
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