2016 Fiscal Year Research-status Report
放射光を用いた中央アナトリア出土鉄器に対する生産地同定法の開発
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15K21657
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
増渕 麻里耶 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, アソシエイトフェロー (50569209)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 産地同定 / 放射光高エネルギー蛍光X線分析 / 放射光X線CT |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、放射光を用いた非破壊での古代鉄製品の観察・分析方法の開発を通じ、人類による製鉄技術の獲得とその黎明期における発展に大きく寄与したと考えられている古代アナトリア(現トルコ共和国)の鉄器製作に関わる新たな知見を得ることを目的としている。特に、放射光を用いた鉄製品の組成分析によって、鉄製品の製作地や原料産地などの特徴を示す化学種を特定することを具体的な目標として定めている。 平成28年度は大型放射光施設SPring-8での実験課題申請が受理され、6月と11月の2度にわたり放射光を用いた測定を実施することができた。放射光X線CT撮影を用いた試料内に残存する金属部及びその中の非金属介在物の分布の把握、そして放射光高エネルギー蛍光X線を用いた元素分析を通じ、バリウム及びランタン、ネオジム等のランタノイドが注目に値する元素である可能性が示唆された。 これらの元素が比較的高濃度で検出される箇所は、非金属介在物が分布する場所と一致する傾向がみらることから、これらの元素は、原料となる鉄片を鍛造して成形する際に内部に取り込まれたものである可能性が高く、すなわち鍛冶工房で採用されていた鉄製品の製作方法や工房の環境自体の特徴を反映する化学種である可能性が考えられる。 今後この可能性をさらに細かく検証するとともに、同一の遺跡から出土する鉄滓のバリウム・ランタノイド元素との比較を行うことで、当該鉄製品が搬入品であるか否かの判定に役立ちうる情報かどうか検討を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、放射光を用いて鉄製品の産地の違いを示す化学種を特定することであるが、研究期間の中程でバリウム及びランタノイド元素が当該化学種である可能性を示唆することができた。放射光施設での測定に関しても、年2回のペースで行うことができており、本研究の進捗内容についても、平成28年度は2報の論文及び研究会発表を行っている。このような状況から研究は概ね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる平成29年度は、前年度までに示唆された化学種に関する可能性をさらに検証するべく、製品内での濃度分布を観察するための放射光蛍光X線分析によるマッピングの実施、元素ヒプロット作成のための分析データの詳細な解析等を進め、国際学会等での発表を通じその成果を社会へ向けて公開していく予定である。
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Causes of Carryover |
平成28年度は、研究に関わる旅費や実験経費にやむ終えぬ変更が生じたため、前倒し支払い請求を行った。請求の際、変更金額がまだ確定していなかったため、請求金額に少し余裕を持たせて試算しため、次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額はもともと前倒し請求の一部に当たるため、原則的に最終年度の計画通りに研究を進めれば、使いきれると考えている。
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