2015 Fiscal Year Research-status Report
高緯度域の海洋酸性化と温暖化に対する植物プランクトン多様性の生態系機能の解明
Project/Area Number |
15K21683
|
Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
杉江 恒二 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 技術研究員 (00555261)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 海洋酸性化 / 植物プランクトン / 物質循環 / 生物多様性 / 温暖化 / 複合環境ストレス |
Outline of Annual Research Achievements |
人間活動に伴い,大気の二酸化炭素濃度は上昇し続けている。この二酸化炭素濃度の上昇速度は,過去数千万年の地球史における自然変動では見られなかったほど急速であるため,生物環境に与える影響が懸念されている。二酸化炭素のような温室効果のあるガスの濃度上昇は,気温の上昇(温暖化)にも寄与しうる。さらに,二酸化炭素は地球表面の約7割を占める海に溶け込んでおり,海水の酸性度が上昇(海洋酸性化)していることも最近明らかになってきた。すなわち,将来の海は現在と比較して温暖で酸性度の高い環境になることが予測されている。しかしながら,複合的な環境ストレスが海洋生物に与える影響に関する知見は極めて限られている。 本研究で対象とする生物は主に植物プランクトンとした。海洋の植物プランクトンの生産は,ほぼ全ての海洋動物のエネルギー源となるだけでなく,我々人類が呼吸で使用する酸素の約半分は彼らの光合成によって生産されたものである。人間活動による環境ストレスが,植物プランクトンに何らかの影響を与えることがあれば,その影響は海洋生態系のみならず,人間の活動にも直結しうるため,知見を充足させる必要のある喫緊の課題である。 2015年度の本申請研究では,学術研究船「白鳳丸」KH15-01次および海洋地球研究船「みらい」MR15-03次航海に乗船し,それぞれの航海において,1回の船上培養実験を行った。培養での実験条件は,温暖化,海洋酸性化並びに複合的な影響を解明するため,各要員を組み合わせた設定で行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
春期の親潮域(学術研究船「白鳳丸」KH15-01次航海)および北極海(海洋地球研究船「みらい」MR15-03次航海)で調査を行う研究船に乗船し,1回ずつ船上での培養実験を予定通り行った。試料の分析も予定通り進んでおり,一部の成果についてはESSAS annual meeting 2015 (2016年3月中旬)および日本海洋学会の春季大会(2016年3月下旬)で口頭発表,Ocean Science Meetingでのポスター発表を行った。また,2016年5月にオーストラリアで行われる,海洋酸性化に関する国際シンポジウムでも「白鳳丸」KH15-01航海で得た結果を用いて口頭発表を行う予定であり,順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在までに得られたデータからは,海洋酸性化のみの環境ストレスが植物プランクトン群集に与える影響は小さいことが示された。しかしながら,温暖化と海洋酸性化の複合ストレス環境下では,小型の植物プランクトンが増加する現象が見られた。このことは,動物プランクトンや魚へのエネルギーの転送効率の低下,並びに,海洋による大気二酸化炭素の吸収効率の低下を示唆している。今後は粒状物質の分析により,光合成によって取り込まれた炭素の動態について分析・解析を進めることで,環境ストレスの複合化が生態系にどのようなインパクトを与えうるのか精査する。
|
Research Products
(3 results)