2017 Fiscal Year Research-status Report
メチル水銀による酸化ストレス誘導メカニズムの解明とそのin vivo神経影響評価(国際共同研究強化)
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15KK0024
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
石原 康宏 広島大学, 総合科学研究科, 助教 (80435073)
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Project Period (FY) |
2016 – 2018
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Keywords | AhR / NADPH oxidase / ミクログリア / マクロファージ / 環境化学物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
環境中の化学物質の幾らかは脳内の免疫担当細胞であるミクログリアを活性化し、Aryl Hydrocarbon Receptor(AhR)の発現を上昇させる。AhRはダイオキシンをはじめとした多環芳香族炭化水素(PAH)の受容体であり、CYP1A1など代謝酵素の発現亢進を介して異物代謝に作用するが、最近AhRは細胞の分化や炎症など、多岐にわたる機能を有することが明らかとなってきた。そこで、本研究では、ミクログリアに発現するAhRに着目し、環境化学物質により引き起こされる神経障害メカニズムの解明を目指す。 平成29年度は、カリフォルニア大学デービス校に滞在し、まず、ミクログリア/マクロファージにおいてAhRにより発現制御を受ける遺伝子の同定を目指した。ヒトマクロファージ細胞株およびAhRノックアウトマウスから単離・調製した骨髄由来マクロファージを用いた解析により、活性化したAhRの下流でNADPH oxidaseのサブユニットの1つであるp47phoxの発現が上昇することを明らかにした。プロモーター解析の結果、p47phoxはそのプロモーター領域に2つのdioxin-response elementをもち、AhRにより直接、発現制御を受けることが示された。さらに、AhR刺激により増加する活性酸素産生は、p47phox発現の上昇に起因することも明らかとなった。 以上の知見より、AhRによる酸化的神経障害には、p47phoxの発現上昇によるNADPH oxidase活性の増大が関わることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はカリフォルニア大学デービス校Christoph Vogel博士の下で研究を遂行した。まずヒトモノサイト細胞株THP-1をマクロファージ様に分化させ、強力かつ特異的なAhR Aryl Hydrocarbon Receptor(AhR)アゴニストである2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)で刺激して、酸化ストレスに関与する遺伝子の発現変化を網羅的に解析した。その結果、TCDDによりNADPH oxidaseサブユニットの1つであり、NADPH oxidase活性を制御するp47phoxの発現が大きく上昇することが明らかとなった。p47phoxの発現誘導はTCDD以外のAhRアゴニストでも生じた。このとき、細胞が産生するスーパーオキシド量を測定すると、AhR刺激によりスーパーオキシド量が大きく増大し、この増大はAhRノックアウトマウスから調製した骨髄由来マクロファージでは起こらなかった。ヒトp47phoxのプロモーター解析を行なったところ、転写開始点の上流3,000bpまでにdioxin-response element(DRE)が2つ同定された。ChIP assayの結果、AhRはこの2つのDREにリクルートされることが明らかとなった。従って、p47phoxはAhRにより直接、発現制御を受けること、AhR刺激による酸化ストレスは、p47phoxの発現増大に起因することが示唆された。 また、THP-1マクロファージをリポポリサッカリド(LPS)で刺激すると、AhRの発現が上昇した。このことは、炎症状態にあるマクロファージはAhRの発現が亢進している、つまり化学物質に対する感受性が上昇していることを示唆している。 以上、AhRの標的が同定できたことから、「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究より、AhRの下流においてp47phoxの発現が上昇し、酸化ストレスが惹起されることが示唆された。多環芳香族炭化水素(PAH)だけでなくメチル水銀など、多くの環境化学物質がAhRのリガンドとなることが報告されている。一方、これら環境化学物質の神経作用には不明な点も多い。そこで最終年度は、AhRノックアウトマウスを環境化学物質に曝露し、ミクログリアにおいてAhRの発現誘導、p47phoxの発現誘導、さらには酸化ストレスが環境化学物質による神経障害に関与するか否かをin vivoで検討する。AhRノックアウトマウスをメチル水銀に曝露し、脳内の酸化ストレスを測定すると共に、協調運動障害が現れる暴露量、暴露期間を野生型マウスと比較する。また、ポリ塩化ビフェニルなど、AhRと結合能を有する他の環境化学物質についても、p47phox発現と酸化ストレス、行動異常との相関を解析し、AhRによるp47phox発現誘導の毒性学的意義を明らかにする。
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