2017 Fiscal Year Research-status Report
インド密教における観想法と曼荼羅儀礼の包括的研究(国際共同研究強化)
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15KK0033
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
菊谷 竜太 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (50526671)
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Project Period (FY) |
2016 – 2018
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Keywords | アームナーヤマンジャリー / アバヤーカラグプタ / ヴァジュラーヴァリー / 『四百五十頌』 / ディーパンカラバドラ / ジュニャーナパーダ / 『秘密集会タントラ』 / 曼荼羅儀軌 |
Outline of Annual Research Achievements |
ディーパンカラバドラ(8世紀頃)の『秘密集会曼荼羅儀軌「四百五十頌」』ならびにその周辺文献について、ハンブルク大学のHarunaga Isaacson教授と連携し、梵文原典の校訂・訳注研究を進めてきた。拠点となる研究機関はドイツ国ハンブルグ大学アジア・アフリカ研究所であるが、同機関以外にゲッティンゲン大学をはじめ周辺の研究機関においても梵文写本資料を積極的に収集し、『四百五十頌』のより精密な解析・校訂作業に繋げてきた。 申請者は、当初は二年間の予定で2017年3月31日に渡航した。2017年度は『四百五十頌』本文ないし同書に基づいて作られたとされるアバヤーカラグプタ(11-12世紀)による大部の曼荼羅儀軌『ヴァジュラーヴァリー』との関係性について、ヴィタパーダ・ラトナーカラシャーンティの両『四百五十頌』注とともに精査する予定を組み、この作業については順調に進めていた。この成果の一部は2017年11月に一時帰国した際に日本密教学会にて発表しすでに学術論文のかたちに纏めている。しかしながら、渡航して間もない2017年5月末に、アバヤーカラグプタの百科事典的注釈『アームナーヤマンジャリー』の梵蔵バイリンガル写本が新たに発見されたことにより、研究状況は一変した。同書には従来は知られることのなかった梵文原典が多数引用されているが、それらは申請者のもう一つの科研採択課題(基盤(C)16K02165)とも密接に繋がっており、『アームナーヤマンジャリー』を軸に据えた新たな研究計画の再構築が必要となった。 さらに、上記に加えて2017年10月には、国内における研究拠点が東北大学より京都大学(白眉センター・文学研究科)に移ることとなり、白眉センターの規定によって、渡航計画についても一部の変更・見直しを迫られた。 以上の作業の遅延については、すでに研究計画の再構築と対策を講じ、作業を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ジュニャーナパーダ流の系譜に連なる曼荼羅儀軌『四百五十頌』は聖典・流派を超えて広く受容されたことが知られている。なかでも、ヴィクラマシーラ僧院の管主アバヤーカラグプタの大部の曼荼羅儀軌『ヴァジュラーヴァリー』は、『四百五十頌』にもとづいてなされたと伝えられており、曼荼羅の理論的な側面を説く彼の百科事典的注釈書『アームナーヤマンジャリー』とともに絶大な影響力を誇った。 当初の予定では『アームナーヤマンジャリー』については原点が使用できない状況であったが、同書の梵蔵バイリンガル写本が新たに発見されたことによって、当初予定していた研究計画について大規模な修正が必要になった。同書の梵文写本は中国において完本の存在が報告されていたものの公開されておらず、従来はごくわずかの梵文断片しか使えない状況にあった。 新たに発見された梵蔵バイリンガル写本は、おそらく二揃いあったバンドルの前半部であり、全体としては半分の分量にとどまるが、申請者の研究課題に直接つながる記述部分「究竟次第の前提となる生起次第」(第7章ー第12章)の全体が含まれていることから、その部分の解析は、研究の達成に不可欠なものと位置づけられる。申請者は以前からチベット語訳にもとづき同書の解析を進めてはいたものの、梵文原典から得られる情報は膨大であり、同書が発見された2017年5月以降にすぐに資料を入手し積極的に内容解析に当たってきた。しかしながら数ヶ月単位での作業の遅れが出ている状況である。 また、渡航計画についてであるが、当初の予定では2017年3月末日より2年間連続してハンブルク大学にとどまる予定であったが、2017年の10月に研究拠点が東北大学から京都大学白眉センターに移ったことにより、異動にともなう諸手続きないし規定によって当初の計画が執行できず、2017年度後半は予定していた渡航期間の三分の一ほどの実施にとどまった。
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Strategy for Future Research Activity |
『アームナーヤマンジャリー』の新出梵蔵バイリンガル写本の発見は、密教文献の分野だけでなく、インド仏教あるいはインド・チベット学の領域全体に衝撃を与えた。同写本の発見にともなって、国内外の研究者が参加した国際プロジェクトがすぐさま立ち上げられ、同写本の研究が進められている。海外における主要な研究拠点が、申請者が滞在するハンブルク大学であり、連携研究者のIsaacson教授を中心となって『アームナーヤマンジャリー』の研究が進められている。申請者は、同書の第1章を中心に校訂・訳注作業を進めているが、本研究課題に密接に関係する第7章ー第12章の解析を並行して進めることによって、さらなる研究の推進に当たっている。 新出資料の発見による研究計画の再構築については、『アームナーヤマンジャリー』を軸に他の資料の内容を関連づけることによって、すでに基本的な計画の再構築を定めることができている。再構築によって従来では原典が利用できなかった部分についても、梵文原典が対照できるようになりつつある。さらに国内外の研究者の連携・協力のもと精密な解析をしうる研究環境もすでに整備されている。『アームナーヤマンジャリー』の梵文原典発見にともなって、本年度より同書に関わる複数の研究課題が新たに採択されたが、そのうち4つの課題と申請者は連携しており、国内外における研究基盤は整えられている。 また、東北大学より京都大学に異動した際に生じた渡航期間の変更による時間的遅延については、所属機関と相談し、変更した期間分を本年度以降に振り替え執行する予定で現在調節を進めている。上述のように、Isaacson教授を中心となって『アームナーヤマンジャリー』の解析が進められている現状において、ハンブルク大学を拠点に研究活動を行うことが重要であり、再構築された研究計画に沿って確実に研究を推進していく予定である。
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