2017 Fiscal Year Research-status Report
やまと絵の場と機能をめぐる受容美学的研究(国際共同研究強化)
Project/Area Number |
15KK0037
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
井戸 美里 京都工芸繊維大学, グローバルエクセレンス, 講師 (90704510)
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Project Period (FY) |
2016 – 2018
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Keywords | 花鳥画 / 朝鮮美術 / やまと絵 / 日本画 / 歴史画 / 庭園 / 屏風 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、大画面の「やまと絵」の遺品が多く残されている室町時代から国家的な歴史画を描く「日本画」に至るまで、「日本的なるもの」として受容されてきた美術作品(特に屏風絵)について、その享受された場やその機能について再検討を行っている。本研究は科研費補助金に採用中の若手研究(B)(2015-2018)と並行して行う研究となる。本年度は明治期の日本画を中心に研究を進めた。東アジアで共通して描かれる花鳥図について調査を行い、日韓併合前後の朝鮮の宮廷の建築内部の装飾に日本人の画家が関与した可能性を指摘した。オハイオ州のデイトン美術館にて新たに朝鮮の宮廷で使用された金屏風を見出したので、その作品を中心に、共同研究者のKim Soojin氏とともに調査の後、オハイオ大学にて報告を行い、論文として東京大学東洋文化研究所紀要に投稿した。国際シンポジウムでの発表(7月)、海外所蔵の花鳥図作品の調査(7-9月)、3月のソウル大学の奎章閣韓国学研究院における客員研究員として国際共同研究を行うことを通して論考をまとめていった。 上記の研究に加え、本共同研究の一環として、海外の研究者を招聘し国際シンポジウムを開催することで、国際的な立場からの日本美術研究を視野に入れ、広く一般や学生に公開することを目指した。6月5日には共同研究者のソウル大学のKim Soojin氏を招き東アジアにおける庭園と絵画に関する国際シンポジウムを開催し、昨年度は中国を軸に、今年度は朝鮮半島の庭園と絵画に焦点を当てた内容とした。昨年度と今年度の発表内容をまとめた『東アジアの庭園表象』は今年度中に刊行予定である。7月26日には法政大学の杉浦未樹氏とともに国際シンポジウムを開催し、プリンストン大学よりThomas DaCosta Kaufmann氏を招きグローバルな視点からの美術やテキスタイル研究の可能性について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は「若手研究(B)」と並行して行うことにより、国内外の美術館・博物館に所蔵されているやまと絵屏風や日本画の作品の調査が可能となったこともあり、実際の作品調査や報告活動を円滑に行うことができている。また、本研究については、知られていなかった朝鮮の屏風絵を米国で見出し、その調査を本研究の共同研究者とともに実見して調査をすることが可能となったこと、その成果についても、同じくオハイオ州にあるオハイオ州立大学において日韓研究と美術史研究の両部門共催の講演会において報告できたことはグローバルな視点から日本画について考えるうえで大変貴重な機会となった。また本研究の論文執筆にあたり、これまでほとんど考察されてきていない日本人画家の朝鮮宮廷における活動について、実際の作品に基づきソウル大学短期滞在中には韓国語の最新研究を取り込むことができた。以上のような点から本研究は当初の計画よりも順調に研究を行うことができているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は多くの海外所蔵の花鳥図作品の調査、2月から3月にかけてのソウル大学での滞在を通して朝鮮半島との影響関係について花鳥図を中心に調査した結果をまとめた。また、昨年度と本年度にかけて開催してきた東アジアの庭園と絵画に関するシンポジウムについては出版を行う予定である。最終年度の新たなテーマとしては、描かれた風景、特に「名所」の概念について平安時代からの和歌や文学作品と関わりの深い風景を描くやまと絵屏風についてまとめていきたいと考えている。7月には名所に関するシンポジウムを企画しており、美術・写真・文学・都市・建築の分野から一人ずつテーマ提供を依頼し、共同研究の可能性を模索する。11月にはハーバード大学にて本テーマについて、今度は文化的・宗教的・政治的などそれぞれのコンテクストを検証することで風景がいかに名所として表象されているのか、ということを国際シンポジウムにおいて検討する。
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