2016 Fiscal Year Research-status Report
模型標本の技法及び構造研究-修復法の確立とレプリカ保存法-(国際共同研究強化)
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15KK0040
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
菊池 敏正 東京大学, 総合研究博物館, 特任助教 (10516769)
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Project Period (FY) |
2016 – 2018
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Keywords | 修復 / 文化財 / 彫刻 / レプリカ / 保存 / 博物館 / 3D |
Outline of Annual Research Achievements |
東京大学総合研究博物館が収蔵する学術標本の中には、急速に西洋化を進めた明治期の影響もあり、20世紀初頭にイギリスから輸入した標本が多く現存する。過去に、大学博物館が収蔵する模型標本の修復研究を進めてきたが、国外から輸入したこれらの標本については、修復材料として適切な処置を選定しにくい状況にある。また、過去の不適切な処置により状況が悪化しているものも存在する。輸入された標本の種類は様々あるが、素材としては金属と木材が多い。中でも、木材に使用される塗料については不明な点が多い。イギリスでは古くから大量の漆器を日本より購入しており、漆塗りを参照し独自に発展した塗装技術である「ジャパニング」と称される油性塗料を用いた技法が存在する。20世紀初頭において、更に様々な塗装技術へと変化し、その過程で派生した油性塗料が輸入された学術標本にも用いられていると推測できる。そこで、ジャパニング技法で制作された作品、及び学術標本を数多く収蔵し研究しているヴィクトリア&アルバート美術館(イギリス・ロンドン)において明治期の学術標本に用いられる油性塗料について、調査と制作技法に関する研究を進め、輸入された学術標本に対する有効な修復技術を追求したいと考える。今年度は、国内における学術標本の現場調査を実施した。主な調査対象は東京大学総合研究博物館所蔵の機構モデルと石膏製標本である。油性塗料や石膏等、素材の損傷状態の把握に努めた。調査では、一部の標本に対し3Dレーザースキャニング計測も実施した。また、渡航先にて使用する予定である研究材料(木材)の加工を進めた。非常に多くの切削加工が必要であったが、本研究では加工を進めるにあたり、Roland MDX-50(3D入出力装置)を使用することで、効率良く進めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内に現存する文化財は、様々な種別があり保存、修復に対するアプローチも様々である。合成樹脂を使用する修復技術は、樹脂の開発も含め西洋からの輸入に頼る部分も多くある。近年では、膠や漆等の伝統的な材料も少しずつ使用されており、制作された風土に合う材料が適している場合もある。しかし、研究対象とする学術標本は、生産国と保存する国が異なるケースがあり、超域的に研究を進めなければならないと考える。また、標本制作後100年を経過する現代において、可能な限り状態の劣化を防ぐには急務な課題である。本研究の遂行により少しでも多くの情報を収集し、輸入された学術標本修復技術について基盤となる技法研究が遂行出来れば、非常に大きな効果を得る事が出来る。 渡航の予定は2017年5月であるが、事前の打ち合わせ、予備調査も兼ねて2017年2月に短期間の滞在を実施した。本研究の遂行にあたり、渡航先での研究準備に必要な3Dモデリングマシンを購入し作業の効率化を図った。渡航先では準備した研究資料を基に計画を進める予定である。国内での研究活動の一環として、学術標本と美術領域の関係性を追求するディスカッションイベントを企画し、展覧会と合わせて実施した。
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Strategy for Future Research Activity |
文化財、文化遺産に対し、学術標本とは重要性を主張される事は少ないが、様々な国で生産されたものを研究機関が収蔵しており、非常に多国籍な資料の集合体である。それらが、各研究機関の歴史において様々な活用をしているため、文化的でありながらグローバリズムに富むものでもある。学術標本に対し重要な資源として修復・保存に取り組む本研究は、国際的な連携が最も必要な研究である。本研究においてイギリス・ヴィクトリア&アルバート美術館と連携を取る事により、日本国内の学術標本はもちろん、学術標本を収蔵する様々な研究機関に与える影響は非常に大きい。研究成果から発生する学術標本は、研究ネットワーク形成において重要な役割を担う。それらの関係を、下支えするのが本研究の役目であり、学術標本の保存維持管理が安定的に行える事で、学術標本の展示公開を通じて着実に連携し、さらなるネットワークの形成に繋がると考える。
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Research Products
(4 results)