2017 Fiscal Year Research-status Report
模型標本の技法及び構造研究-修復法の確立とレプリカ保存法-(国際共同研究強化)
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15KK0040
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
菊池 敏正 東京大学, 総合研究博物館, 特任助教 (10516769)
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Project Period (FY) |
2016 – 2018
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Keywords | 修復 / 彫刻 / 3D / 文化財 / 美術 / 保存 / 博物館 / 学術標本 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、5月よりイギリスに渡航し現地にて研究活動を実施した。イギリスには、研究材料として昨年度より準備を進めていた木材や漆を持ち込んだ。木材の事前準備には、Roland MDX-50(3D入出力装置)を使用した。イギリスでの研究活動に際し、材料の加工作業が可能なスペースを必要としたが、現地にて美術館キュレーター等の協力を仰ぎ、順調に研究活動を進めることができた。様々な加工用の道具類についても同時に持ち込み、漆や木材に関する実験的な制作及び調査を実施した。日本での準備期間も含め、多くの時間を実制作研究に費やすこととなったが、現地にて漆を使用し乾燥状態を確認しつつ、美術館に収蔵中の資料の調査を行ったことは大きな成果の一つであった。また、様々な木製品に使用される油性及び水性塗料を調達し、国内に現存する学術標本に使用された塗料と比較を進めた。東京大学が収蔵する学術資料に使用されている油性塗料と類似する物は多くあり、加えてヴィクトリア&アルバート美術館に収蔵されている漆に近い樹液を利用した工芸品においても、アジアだけでなくメキシコやコロンビアでも同種の物が古くから使用されていることが判明し、今後さらに調査を進める必要があると考える。今回の研究成果の発信方法としては、ヴィクトリア&アルバート美術館にて2017年10月より開催された「Lustrous Surfaces」という企画展に参加し、研究から展示公開までを滞在期間中に包括的に進めることができた。展覧会は2018年秋まで継続して開催される予定である。また、美術館内の修復部門での調査活動に加え、シティ&ギルド美術学校における修復部門との意見交換なども実施し多くの収穫があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の進捗状況としては、調査、修復、レプリカ制作、展示公開と順調に研究を進めている。昨年12月にイギリスでの研究活動を終えたが、滞在中には美術館で開催された展覧会に研究成果を展示公開した。イギリスでの研究開始から約5ヶ月後に始まる展覧会に間に合わせるよう研究を進めた。磨かれた表層(塗膜)にスポットを当てた本展覧会は、主に漆製品を中心に構成されており、東アジアだけでなくヨーロッパから南米に至るまでの様々な塗料を用いた作品が展示されている。今回の研究に際し、明治期に輸入された学術標本(ヘンリーダイヤーが持ち込んだ産業機械工学資料。明治初期。イギリス製。)等の塗膜について調査を進めつつ、イギリスに日本から持ち込まれた漆を使用した工芸品についても合わせて調査を実施した。加えて、修復材料についてもヴィクトリア&アルバート美術館にて調査を実施した。帰国後は、再度学術標本の調査を実施している。油性塗膜だけでなく、日本の伝統的な技術とは異なる制作技法で制作された学術資料(主に木製品)の3Dレーザースキャニング計測等も実施している。また、昨年実施した学術標本と美術領域の関係性を追求するディスカッションイベントについても継続して企画している。
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Strategy for Future Research Activity |
イギリスには資料調査のため再度、短期間の渡航を計画中であり、現地では展覧会の実施状況について精査するとともに、今後の展覧会についても検討する予定である。また、学術標本の修復材料についても国内と比較し、現地での調査を進める。今後は、標本が持つ歴史的な意義を消失させないような材料を検討しつつ、国内にて実践的に修復、レプリカ制作を実施していく。特にレプリカ制作はオリジナル標本の現状維持を助けるためも有効であり、今後、博物館の収蔵方法として新たなスタイルを確立できるとも推測される。また、最終年度に向けてこれまでの研究成果をまとめつつ、国内での展覧会、シンポジウム、学会発表等を計画中である。
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