2017 Fiscal Year Research-status Report
啓蒙期から現代に至るカタストロフィの思想と表象に関する総合的研究(国際共同研究強化)
Project/Area Number |
15KK0052
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
西山 雄二 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (30466817)
|
Project Period (FY) |
2016 – 2018
|
Keywords | カタストロフィ / リスク / 災厄 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、人文学(主に思想と表象の学問分野)の文献や理論の検討、実地調査にもとづいて、これまで人間はいかにカタストロフィを表象し思考し解釈してきたのかを問い、カタストロフィと人間の関係を根本的に考察した。学術発表では、東北被災地での幽霊体験の証言から、生死の閾を表象する文学の可能性を考察した。いとうせいこう『想像ラジオ』における死者と生者の共存のヴィジョンを、柳田国男『先祖の話』や夢幻能の事例を参照しつつ、ジャック・デリダの憑在論とからめて研究をおこなった。カタストロフィに直面した社会は犠牲者たちの鎮魂の試練に曝され、その文化が伝統的に育んできた追悼の方法が試されるのである。生と死のあいだで喪のいかなる文化装置を想像し洗練させるかは、人文学こそが深めることのできる問いであるだろう。渡航先のフランス国立東洋言語文化大学を拠点として、ブルガリア・ソフィア大学で国際会議「世界の破壊と創造」、パリでワークショップ「カタストロフィの試練に曝されるデリダ」、国際会議「目の前のカタストロフィ」「脱原発の哲学」を企画・主催した。海外の研究機関・研究者と学際的に連携しつつ、カタストロフィをめぐる人文学的研究のネットワーク形成を進めることができた。フランスでは福島の原子力事故に対する研究者および一般市民の関心は高く、当該の研究が他国と比べて進んでいる。渡航先をパリにしたことで、より多くの研究者らと実りある議論を交わすことができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年8月からパリに渡航し、フランス国立東洋言語文化大学を拠点として研究活動を展開しているが、現在までおおむね上手く進展している。国立東洋言語文化大学の日本学センターはヨーロッパでも随一の日本学拠点であり、同センターの研究者の好意的な協力もあり、日仏の共同研究の促進には最適の環境である。ブルガリア・ソフィア大学で国際会議「世界の破壊と創造」、パリでワークショップ「カタストロフィの試練に曝されるデリダ」、国際会議「目の前のカタストロフィ」「脱原発の哲学」を企画・主催した。とりわけ、国際会議「目の前のカタストロフィ」では、カタストロフィ研究の泰斗Jean-Pierre Dupuy、リスク社会学者Frederick Lemarchand 、人類学者Yoann Moreauを招聘して、充実した議論を交わすことができた。討論会「脱原発の哲学」は科研費基盤Cの共同研究者全員での会で、核エネルギーの思想や展望についての討論で共同研究を締めくくることができた。海外の研究機関・研究者と学際的に連携しつつ、カタストロフィをめぐる人文学的研究のネットワーク形成を進めることができた。論文については、Les Cahiers philosophiques de Strasbourg誌での査読論文などを発表した。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成30年8月までパリでの在外研究を進め、9月以後は首都大学東京に戻って研究を継続させる。5月のフランス国立東洋言語文化大学での発表では、二つのゴジラ映画(1954年の『ゴジラ』と2016年の『シン・ゴジラ』を比較して、核エネルギーの表象をめぐって考察をおこなう予定である。ゴジラは人類が倒すべき敵であると同時に、原子力兵器の犠牲者でもあるがゆえに、日本独特の怪獣表現となっている。第五福竜丸事故や原子力の平和利用など、核エネルギーに関する日本の重要な転換期にゴジラ映画は誕生し、戦争の記憶と予感、原子力の軍事利用への拒絶と平和利用への期待といった社会的・歴史的背景を映し出している。だが、『シン・ゴジラ』では福島原子力事故の踏まえて、冷温停止されて宙づりになったゴジラといかに折り合いをつけるべきかが問われる。国際会議としては、5月のカナダでのDerrida Today, 7月のスロヴァキアでの「ヒューマニズムの未来」、9月のローマでの「カタストロフィ」といった会議で発表予定である。また、その成果は紀要「人文学報」にて小特集を組んで公表する予定である。
|