2017 Fiscal Year Research-status Report
17-19世紀南米ラプラタ地域イエズス会布教区の住民名簿に関する歴史人類学的研究(国際共同研究強化)
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15KK0063
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
武田 和久 明治大学, 政治経済学部, 専任講師 (30631626)
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Project Period (FY) |
2016 – 2018
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Keywords | イエズス会士 / グアラニ先住民 / 布教区 / 住民名簿 / カシカスゴ |
Outline of Annual Research Achievements |
ブエノスアイレス(アルゼンチン)に滞在中は海外共同研究者のギジェルモ・ウィルデ博士と週一度のペースで議論を行い、研究の進捗状況の確認と、2017年8月25日に博士と共同開催した国際研究集会「スペイン語圏アメリカの植民地時代のフロンティア地域におけるミッション文化、領域認識、宗教的回心」に関わる準備を行った。これ以外の時間は国立文書館で史料調査を行い、滞在先で調査結果をまとめたり、後述する国際研究集会の準備をしたりした。 国際研究集会への参加者は、アルゼンチン人を中心に、ブラジルやチリ出身の面々が集った。いずれも、南米南部地域のイエズス会研究を世界的にけん引していくことが期待される人々である。なお、研究代表者が本国際研究集会で行った具体的な活動は後述する。 セビリア(スペイン)では主にインディアス文書館で史料調査を行った。今回は、1657年住民名簿の欠損部分の複写を依頼すべく、欠損箇所を特定して複写を完了させた。同年の住民名簿はアルゼンチン、ブエノスアイレスの国立文書館にも収められており、これの入手はすでに完了していたのだが、知人の研究者からの指摘により、インディアス文書館が所蔵する同じ1657年の名簿には、ブエノスアイレスの名簿には存在しないページが含まれていることがわかった。この指摘を受けて、今回セビリアで史料原本を確認すると、それぞれの布教区の住民の氏名が列挙された後、(1)布教区の武器庫に収められていた武器の種類と数について記されたページと、(2)住民への課税金額を記したページの二つが挿入されていたことがわかった。こうしたページはブエノスアイレスの史料には存在せず、今回の調査において史料の欠損箇所を補うことができた。 こうしたインディアス文書館での調査と並行して、スペイン高等科学研究院イスパノアメリカ研究部門図書室にて本研究の推敲に必要な二次文献を入手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者は上述の国際研究集会において、個人発表「イエズス会布教区におけるカシカスゴの継承に関する理論と実践―グアラニ先住民名簿に関する考察―」を行った。現在進行中の住民名簿に関する研究の進捗状況を説明し、先住民親族集団カシカスゴの継承パターンの解明について住民名簿を通してわかることを説明した。特に1676-1677年に作成された名簿には時折、カシカスゴの引き継ぎに関する備考的な記述が表れることがあり、この内容を他の時代の名簿と比較することで、カシカスゴについて基本的には血統が重んじられ、男性の長子に引き継がれることが通例だったこと、また首長であるカシケの血筋を引く娘と結婚した男性がカシカスゴを相続するケースが多くみられることがわかった。また、他界したカシケを祖父に持つ場合、その孫が、父の名字ではなく祖父の名字を継承するケースがあったこと(この場合は祖父と父の名字が異なっているケースである。この問題については現在研究中である)、さらにはカシケだった祖父の名字と、その長女である母の名字があわさって一つの名字が形成され、それが祖父の孫に引き継がれていたという事例についても報告した。会場からは、こうしたことはスペインに起源をもつ名字継承の典型例かもしれないという指摘がなされたが、断定するだけの根拠には乏しく、むしろグアラニ先住民の在来の文化に根差したロジックではないかという指摘も出たため、この指摘を考慮しつつ、今後の研究を進めていく必要性が再確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
ウィルデ博士とは、研究代表者が2018年度もブエノスアイレスに渡航し、本年度の研究成果を踏まえつつ研究を継続していくことで合意した。 また、上述の国際研究集会では、研究代表者は個人発表と並んで共同発表「新プロジェクトの立ち上げ―イエズス会布教区に関する領域可視化地図の作成-」を行った。本研究を進めていく過程で、イエズス会布教区にかかわる様々な情報を、地理情報システム(Geographical Information System)を用いてインターネット上に表示させるというプロジェクトの重要性と計画案を発表した。これが実現すれば、布教区の設立年、移動年、人口数、牧場や河川、畑など、布教区の周辺地域の細かなデータをインターネット空間に取り込み、世界中どこからでもアクセスを可能にし、諸データの変異を可視化できるようになる。この計画が実現されれば、布教区ごとのカシカスゴの数や時代ごとの変遷、一つのカシカスゴに内包される複数の家族がいかなる苗字から構成されていたのかなど、グアラニの親族集団の動態が鳥瞰的な視点から把握できるようになる。この計画はブラジリア大学(ブラジル)において地理情報システムを駆使した研究プロジェクト「ポルトガル領アメリカ歴史地図」(Atlas Historico de la America Lusa)の責任者であるティアゴ・ヒル博士の専門的な知見も踏まえながら進めていくことでウィルデ博士と合意した。
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