2015 Fiscal Year Research-status Report
医療技術の発展に対する司法の応答性と司法判断の政策形成への影響(国際共同研究強化)
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15KK0110
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
畑中 綾子 東京大学, 高齢社会総合研究機構, 客員研究員 (10436503)
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Project Period (FY) |
2015 – 2016
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Keywords | 終末期 / 高齢社会 / 意思決定 / 司法の役割 / ガイドライン |
Outline of Annual Research Achievements |
高度な医療技術が社会に提供されるに伴い、従来想定していなかった副作用や社会問題が発生し、訴訟が社会の中の最初の決定者としての問題解決の役割を果たし、その後の社会の判断に影響を与えることもある。基研究課題は、そのような問題に対し、司法が行政や立法の裁量に対しどのような判断を行ったかを検討することで、司法の現代的役割を探ることを目的とする。これら検討を受けて、国際共同研究の対象とするのは、終末期における延命治療中止の決定と医師の法的責任についての検討である。 本研究に関連し、今年度は終末期の高齢者の意思決定支援に関する香港を中心とするアジアの動向について、高齢社会問題の研究者との共同研究環境に身をおき、研究者ネットワークの拡大および、研究内容の広がりをめざしている。香港での2006年から延命治療の中止に関する政府のガイドラインに注目する。ガイドラインには終末期の医療提供を行わない場合が規定され、2010年、2014年の改訂に伴い、適用範囲が拡大されつつある。今年度はガイドラインの概要や法的効果などを整理することに専念し、また来年度に向けた研究環境を整えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の3月に開始した課題であり、実施で来た期間は一月である。研究を実施するための環境を整えることに専念し、これについては計画通りに進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
終末期の延命治療の中止や、患者の意思決定に関する医師の法的責任およびそれに対する裁判所の役割の点では、終末期の患者の意思決定と、延命治療の中止については、近年アジア各国でガイドラインや法制化がすすみつつあり、香港では2010年に政府のガイドラインが作成され、2014年に改訂される。さらに2017年もさらなる改訂が行われる予定もあるようである。ガイドラインの制定過程における議論の調査研究を行うとともに、医療機関や介護施設での実践状況についてインタビュー調査を行う予定である。香港では事前指示に関する制定法や判例法はないが有効に作成された事前指示は、英米法圏におけるコモンロー上の法的拘束力がある。しかし制定法がないことで医師はその事前指示による意思の実現に迷うケースも想定され、患者の意思が優先されるべきかについて議論がある場合、その決定についての申込みは裁判所に対してなされるべきではないかなどの議論がなされているなど、司法の役割について参考になる部分がある。 同時に日本の現在の動向についても整理し、比較の視点でまとめておく。この日本の状況について香港大学やその他国際学会等での報告を行い、諸外国の研究者からの意見や反響をもらうことで、日本の司法の特徴や、海外での運用状況などを知る機会を増やしていく。現在、申請者は香港大学高齢社会研究センターで客員研究員の身分をもち、定期的な研究交流の機会や共同研究、調査の機会を定期的にもつ。また同大学法学部生命倫理と法研究センターでも日本の高齢者の事前意思決定に関する調査の実施についてアドバイスを受ける機会をもち、また国際シンポジウム等のイベントに参加する機会も多い。これら機会を活用し、研究者ネットワークの拡大と、研究課題の国際比較の点を強化していく。
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