2016 Fiscal Year Research-status Report
ポストウェストファリア体制の国家像の模索:欧州辺境の未承認国家の比較研究から(国際共同研究強化)
Project/Area Number |
15KK0130
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
廣瀬 陽子 慶應義塾大学, 総合政策学部(藤沢), 教授 (30348841)
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Project Period (FY) |
2016 – 2018
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Keywords | 未承認国家 / 凍結された紛争 / 旧ソ連 / 旧ユーゴスラヴィア / ロシア / EU(欧州連合) / NATO(北大西洋条約機構) / 北極圏 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、未承認国家問題を文献調査、現地調査、そして研究協力によって深め、学術的に意義ある成果を出すと同時に、政策提言などにより実際の紛争解決や予防に研究を役立てることを目的としている。 H28年度は、年度末からの渡航に先駆け、2度フィンランドを訪問し、事前に研究体制を構築するとともに、H28年夏から、渡航前ではあるが研究協力者及び研究協力者の研究仲間であるドイツの研究者と共同プロジェクトを開始した。同プロジェクトは、ドイツ、フィンランド、ルーマニアの多くの専門家とともに、欧州地域の凍結された紛争と未承認国家問題を多面的に検討し、最終的には、最新の研究として出版することを目指している。 また、個人的にも単著、共著、論文、学会発表などで多くの成果を発表してきた。特に、アゼルバイジャンの未承認国家である「ナゴルノ・カラバフ」で紛争が再燃したことから、より深い検討が求められたが、その検討結果の一部は単著や論文で示すことができた。また、日本国際政治学会の大会における部会発表では帝国・連邦制を鍵として未承認国家問題を再検討し、多くのコメントや活発な議論で大きな示唆を得ることができた。 加えて、未承認国家問題を解決するためのヒントを得るために、北極圏の国際政治や地域政治、そして民族問題にも注目した。ノルウェーの主権下にありながら、ロシア人も自由に活動ができるスヴァールバル諸島の事例や、多くの少数民族が平和裡に権利を高く尊重されながら共栄共存している状況、さらに、ウクライナ危機以降、ロシアは国際政治の論理では問題視されながらも、地域の論理では良きパートナーとみなされていることなど、紛争解決やアクター間の妥協を考えていく上でのヒントが北極には多々あると考え、ノルウェーとフィンランドで現地調査を行い、国際会議で2度発表したほか、地域協力を考える論文も投稿中であり、政策提言の準備も進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
まず、H28年度末のフィンランドへの渡航に先駆けて、フィンランドに2度訪問して研究協力者と何度もミーティングを行い、フィンランドのみならず、ドイツ、ルーマニアの研究者も交えた形で研究協力の枠組みが構築できたことは、極めて順調なスタートを切ることができたと考えている。 また、全く想定外の事件であったが、未承認国家の一つである「ナゴルノ・カラバフ」での戦闘が4日間ながらH28年4月に再燃したことは、新たな検討材料となった。だが、その検討により、未承認国家問題を考える上で、重要な示唆を得ることができただけでなく、その検討結果の一部を発表することもできた。 加えて、10年以上続けてきた日本の研究者たちとの黒海地域の国際関係に関する共同研究でも、書籍出版の形で大きな成果を出すことができた。その共同研究では、未承認国家問題も重視されていたため、未承認国家問題の日本国内の議論は全て吸収できたと確信している。このことにより、本研究の立脚点を確立できたと考えている。 さらに、未承認国家問題を解決する手段はなかなか見つからず、これまで解決に向けた有望なシナリオを提示できた研究者はいないが、北極圏の国際関係、地域関係、少数民族問題などの事例から、未承認国家問題の解決ないし譲歩を引き出すためのシナリオを構築するヒントが得られた。今後、この点も推敲し、研究や政策提言などに繋げていきたいと考えている。なお、このような観点は当初全く思い浮かばず、これもフィンランドやノルウェーの研究者との交わりを通じて得られたものであるため、国際共同研究の意義を改めて感じている次第である。 このように予定していた計画が順調である上に、新たな視点でも研究を進められたことから、本研究は順調に進んでいると言えるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、当初の予定通り、文献研究、現地調査、そして研究協力者及びその他の専門家たちとの共同研究によって進めていく。 研究協力者との共同研究には、すでにドイツやルーマニアの研究者も参加することになっており、より国際的に研究を深めていきたい。 加えて、現地調査としては、以下の国々での調査を予定している。第一に未承認国家問題に深く関わるロシア、第二にEUは未承認国家問題の鍵を握っているが、それらの主要国の中で研究協力者がいないフランス、第三にロシアの隣国にあって未承認国家問題を他人事と考えられないバルト三国、第四に未承認国家問題の解決のヒントを得る事例としてノルウェーの主権下にありながらもロシア人との共存に成功しているスヴァールバル諸島及びフィンランドの主権下にありながらスウェーデン語が公用語で自治を獲得しているオーランド諸島、第五に同じフィンランドの中でもロシアに多くの領域を取られたカレリア地方や同じロシアと接する地域でもバレンツアイデンティティを持つとされるラップランド地方である。これらの現地調査では、関係者や研究者へのインタビューや資料調査、そしてそれらの比較や分析を行う予定である。研究の状況次第では、さらに現地調査を増やす可能性もある。 最後に、未承認国家問題はナショナリズムと切り離せないが、近年、世界でポピュリズムの趨勢が顕著になってきている。ポピュリズムが民主主義や権威主義に及ぼす影響については研究がすでに出始めているが、ナショナリズム、ひいては未承認国家問題と連関させた研究はほとんどないので、その問題も検討していきたいと考えている。 このように基本的な研究計画に基づいて研究を進めながらも、様々な事件や傾向にも敏感に対応し、より現代的かつ新規的な研究になるように心がける。また、より多面的かつ国際的に成果を発表し、それがさらなる国際共同研究の呼び水となるように努める。
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Research Products
(18 results)