2016 Fiscal Year Research-status Report
判断能力不十分者の法主体性回復に向けた成年後見法制と事務管理法制の体系的再解釈(国際共同研究強化)
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15KK0134
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
菅 富美枝 法政大学, 経済学部, 教授 (50386380)
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Project Period (FY) |
2015 – 2017
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Keywords | 判断能力不十分者 / 成年後見 / 自己決定支援 / 制限行為能力制度に依らない新たな消費者法制 / 脆弱な消費者 / 英国のEU離脱(BREXIT) |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度におけるオックスフォード大学法学部から、研究拠点をドイツ・フンボルト大学法学部に移し、判断能力の不十分な消費者の自己決定支援という観点から「2005年不公正な取引方法指令 (UCPD)」を分析し、同指令の各加盟諸国における国内法化の動向を追った。 ①不公正な取引行為に関する2005年EU指令に関するシンポジウム、イェール大学・フンボルト大学共催消費者法シンポジウム、ヨーロッパ契約法学会(SCOLA)年次学会、英国法律家学会(SLS)年次学会、ヨーロッパ法研究所(ELI)年次学会、成年後見法世界会議等、多数の国際学会・シンポジウムに積極的に参加し、研究者間交流に力を入れた。成果については、6本の日本語論文の形で公表した。 ②ベルリンで開催された「成年後見法世界会議」における招聘報告において、成年後見法と消費者法とのより積極的・意識的な連関を、国連障害者権利条約(UN・CRPD)批准各国に対して提唱する趣旨の報告を行い、フロアから大きな反応を得た(2016年9月15日)。なお、同報告に先立つ9月14日、ドイツ放送局WDR5製作のラジオ番組においてインタビューに応じ、同報告の骨子を紹介した(9月19日現地放送)。 ③「ヨーロッパ法研究所(ELI)年次学会」における「脆弱な成年者」セッションにて、今後の共同研究についてオファーを与えてくれた英国事務弁護士、また、既述「成年後見世界会議」での招聘報告に対して積極的な反応を示してくれた英国法廷弁護士等に加え、かねてより交流のある英国高等法院元裁判官、同保護裁判所元裁判官と共に議論を行い、EU離脱前の英国の置かれた状況を冷静に見つめるとともに、英国のEU離脱が成年後見法、消費者法分野に与えうる将来的影響を展望をした。 ④2017年1月と3月、英国オックスフォード大学を拠点として追加調査を行い、継続的な連携共同研究体制を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究調査全体を通して、国連障害者権利条約12条―「法的能力」の平等―の理念に則り、判断能力の不十分な成年者を「法的主体」として積極的に位置づけるためにいかなる法制度が必要かについて、成年後見制度、事務管理法、契約法、消費者法の観点から考察を行うという本研究の主題を隈なく取り扱うことができた。 こうした分野横断的かつ比較法的考察によって、本人の意思の尊重、情報支援、不公正な取引行為の規制、及び、救済制度の拡充といった三つの視点への配慮、すなわち、判断能力不十分者を「消費者」として再認識した上で、判断能力・交渉力の脆弱性に注意し、彼らの契約の自由を実質的に保障する「制限行為能力制度に依らない新たな消費者法制」を提唱することができた。以て、成年後見制度と消費者法制の統合という試みに一石を投じることができた。 本年度における調査研究活動を通して、複数のEU加盟諸国出身研究者(ドイツ、英国、リトアニア、ポーランド、ハンガリー、ポルトガル、ルーマニア、イタリア、オランダ、オーストリア、フィンランド等)と議論できたことにより、今後の共同研究への協力が当初の計画以上に早い段階で準備・実践できた。また、次年度における、国内での国際シンポジウムの開催についても、具体的な計画と準備開始を行うことができた。さらに、前年度からの調査研究活動も含め、本研究全体の成果を単著の形で出版する作業を、当初の計画以上に早い段階で開始することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1 最終年度にあたる平成29年度は、前年度の調査研究活動を通して協力の内諾を得た各国の研究者・実務家との連携をさらに強化するとともに、特にこれらの共同研究者の中から、リトアニア・ミコラスロメリス大学法学部ダンブラカイステ教授を招聘し、2018年3月3日法政大学市ヶ谷キャンパス・ボアソナードタワーB会議室において「判断能力の不十分な消費者の法的・社会的支援」をめぐる国際シンポジウムを開催する。なお、本シンポジウムの開催に当たっては、我が国の成年後見利用促進法改革に造詣の深い有識者をお招きし、パネリストとして登壇頂く旨、内諾を得ている。 2 前年度に続き、「脆弱な消費者」を包摂する法制度に関する論考<下編>を日本語にて国内専門誌から刊行する。 3 3年間に亘る本研究の成果として、2018年2月に単著(『脆弱な消費者と法(仮)』成文堂書店)の形で出版することを予定している。
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