2017 Fiscal Year Research-status Report
ディラック電子系物質における熱電効果の理論(国際共同研究強化)
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15KK0155
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
伏屋 雄紀 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (00377954)
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Project Period (FY) |
2016 – 2018
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Keywords | ディラック電子 / 熱電効果 / スピン軌道結合 / ビスマス / アンチモン / IV-VI族半導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は申請者が約11ヶ月フランスに滞在し,共同研究を進めた.当初予定通り,様々な熱電材料(Bi, Sb, PbTe, SnSe, SrTiO3等)について共同研究を行なった.(1)Biにおける磁気抵抗とバレー自由度に関するこれまでの研究を統一的視点から整理し,総説論文としてまとめ,投稿した. (2)Sbの磁気抵抗を測定し,全ての半金属の中で最大の磁気抵抗値を見出した.磁気抵抗の磁場方向依存性は3バレー模型によりある程度定量的に説明できることを示した.一方,詳細なバンド計算に基づけば,Sbのフェルミ面はむしろ3つのバレーが連結している可能性が高いことが分かった. (3)IV-VI族半導体(PbTe, PbSe, SnTe, SnSe)の詳細な電子構造を第一原理計算およびLCAO計算により明らかにした.またそれらの圧力依存性についても調べ,それによる熱電性能向上の可能性を議論した. (4)SrTiO3で実験的に観測されている,単一キャリアによる磁気抵抗を理論的に研究した.予備的計算によると,単一キャリア模型においても観測されている磁気抵抗及びその温度依存性を定量的に説明できることが明らかになってきた. (5)Bi単原子膜作成時に現れるパターン形成について,非線形物理および弾性理論に基づいてその起源を調べた.数値シミュレーションにより,実験的に得られているパターンを再現することに成功した. 滞在グループとの共同研究を進めるだけでなく,国際的研究ネットワークを構築するため,次の活動も行なった.(6)日仏の新進気鋭若手研究者を招待し,国際ワークショップ “Spin-Orbit Interaction and G-factor (SOIG2017)”を主催した.日本:9名,フランス:13名が参加し,最新の研究について報告し,討論を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画通り,様々な熱電材料についての共同研究を進めることができた.特にIV-VI族半導体については,ESPCIの実験グループだけでなく,隣接する高等師範学校の実験グループとの共同研究の機会を得,さらに強固な陣容で研究を進める体制が整った. Sbの磁気抵抗については過去最高の磁気抵抗値を得ることに成功したばかりでなく,Sbフェルミ面のトポロジーに関する新たな謎が浮かび上がってきた.これはまさに理論と実験共同研究の成果である.共同研究を継続することで,この謎の解明が期待される. 特筆すべきは,単層Biのパターン形成に関する新しい共同研究の立ち上げである.これに関する新しい実験は,スタンフォード大学のAharon Kapitulnikのグループによってもたらされた.折しも滞在期間中にKapitulnik教授もESPCIの研究グループに短期間滞在し,その間に行なった意見交換により,新たな共同研究へと至った.これは長期滞在を可能とする本国際共同研究加速基金ならではの成果と言える.
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Strategy for Future Research Activity |
前年度行なった共同研究をそれぞれに進め,全体を総括する.(2)Sbにおける磁気抵抗の角度依存性を理論的に計算する.Sbのフェルミ面のトポロジーについて,3つのバレーが結合しているのか分離しているのかについてまだ解明されていない.これを解明するための実験条件を理論的に明らかにする.それに基づいて効率的に実験を行い,最終的にSbフェルミ面のトポロジーの決定を目指す. (3)IV-VI族半導体の電子構造を統一的に説明できることを目指す.特に,磁場中電子構造について,最低ランダウ準位の磁場依存性を理論・実験両面で明らかにすることを目標とする. (4)SrTiO3の磁気抵抗について,これまで行なってきた理論計算の信頼性および精度を高め,実験の完全な理解を目指す.さらに,他の半金属で観測されている線形磁気抵抗との関連性についても調べる. (5)単層Biのパターン形成について,これまで行なってきた現象論的な非線形方程式ではなく,より微視的な弾性理論に基づく非線形方程式を導き,それに基づき実験で観測されているパターンの微視的起源を明らかにする. (6)これまで構築してきた国際的研究ネットワークをさらに強固なものにするため,日本人研究者間のネットワークを固めつつ,フランス研究グループとの交流を促進する.最終的に,これまで行なってきたESPCIグループとの共同研究以外に日仏間の共同研究を行うことを目指す.また,日仏ネットワークを起点に,さらに多くの海外研究者が参加できるネットワーク構築を進める.
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