2016 Fiscal Year Research-status Report
電気化学的なプロトン注入とH+ダイナミクスの解明及びガラスの新機能発現(国際共同研究強化)
Project/Area Number |
15KK0203
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
大幸 裕介 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70514404)
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Project Period (FY) |
2016 – 2018
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Keywords | プロトン注入 / プロトン伝導性ガラス / クリープ / 圧子圧入法 / 燃料電池 / マイヤー硬度 / ラマン分光法 |
Outline of Annual Research Achievements |
プロトン(H+)が材料中に導入されると、金属・無機・有機材料のいずれも力学特性などが大きく変化することが知られている。材料へのH+注入は高温水素雰囲気での熱処理やイオン加速器によるH+照射が一般的であり、これらの方法ではH+注入とともに力学特性などがどのように時間変化するか定量的にその場計測することは難しい。本研究では独自の装置開発を通じて電界を利用したガラスへのH+注入ダイナミクスを評価している。ガラスのプロトン(-OH基)濃度は赤外分光法により、またH+注入に伴う力学物性変化は圧子圧入法より調べている。いずれの評価も水素ガス中でガラスに通電することでH+を注入して、そのときのH+濃度と力学応答をその場解析可能である。これまでにH+濃度の時間変化の解析から、H+注入が一次反応であることを明らかにした。またH+注入にはわずかでも水分(相対湿度換算で0.1%以下)が不可欠であった。レンヌ第一大学(フランス)と共同で特にH+注入時のガラスの機械的な応答を定量解析することに着目している。従来の時間依存型の粘弾性構成方程式にH+の拡散を加味することで、H+注入によるガラスの構造変化を理論検証する。これまでにH+注入条件下でクリープ変位(荷重一定条件における圧入深さの変化)の測定より、非注入時と比較してクリープ変位が著しく大きくなることを確認した。粘弾性構成方程式より単一成分の緩和を仮定して変位の時間変化を解析したところ、H+注入条件であるか否かに関わらず加湿によって前項因子が変化し、他方、プロトン注入条件では緩和の時定数τが増大することを明らかにした。従来から知られる「水の吸着」によるガラスの構造変化とプロトン注入によるものとを区別して議論できると考えられる。水素脆化やガラスの応力腐食メカニズムの解明や新たなH+伝導性電解質の創成など波及効果の高い成果になると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H+注入ダイナミクス解析に必要な反応速度定数やクリープ緩和時定数などの実験データ取得が当初計画通りに進んでおり、またH+注入に伴うクリープ変位の増大などこれまで報告例の無い結果も得られている。今後は粘弾性構成方程式にH+拡散の効果を加味して、H+がガラスにどのように拡散して、その結果生じる構造緩和を時間の関数として理論に基づき解析する。また国内共同研究者と海外共同研究者との共同研究推進を促す目的で、2017年8月にH+注入活性に関する小規模シンポジウムを開催する。本研究(国際共同研究強化)の主旨を十分理解し、申請者自身が国内共同研究者と海外機関とのハブとして連携強化を図ることで、将来のH+導入技術の幅広い応用展開に繋げる。 他方では本国際共同研究加速の目的より、ガラス(酸化物)の機械的特性の評価から派生して、機械的衝撃による酸化物の構造変化をエルランゲン・ニュルンベルク大学(FAU, ドイツ)と調べる機会を得た。酸素欠陥生成の時間発展を理論的に導き、一例としてZnOに対して表面欠陥を利用したアニオン(S)ドープを示した。研究者ネットワークが広がっており、計画が順調に推移していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き組成の異なるガラスに対してH+注入量の時間変化およびクリープに関する実験データを取得する。本年度は実際に渡仏してRouxel研(レンヌ第一大学)に滞在予定であり、そこでは先方所有の装置を用いてH+注入前後のガラスの弾性率の温度変化を測定する。このデータはこちらでは取得できず、クリープ等の力学応答を解析し、また有限要素解析の精度向上に不可欠である。ガラスを含む材料中にH+がどのように拡散し、それに伴い如何に力学特性や電気特性が変化するかを上記解析より明らかにする。またFAUなど他機関や国内共同研究者との連携も相互に継続発展させる。
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