2017 Fiscal Year Research-status Report
テラヘルツ電磁波による単一電子・スピン伝導ダイナミクスの制御と情報機能の創製(国際共同研究強化)
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15KK0215
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Research Institution | Tohoku Institute of Technology |
Principal Investigator |
柴田 憲治 東北工業大学, 工学部, 准教授 (00436578)
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Project Period (FY) |
2016 – 2018
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Keywords | 量子ドット / テラヘルツ / トランジスタ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、量子ナノ構造を用いた次世代素子の開拓に関する国際共同研究を推進するために、2017年4月20日から2018年3月25日までの約11ヶ月間の間、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)に赴いた。ETH滞在中に、主として低次元半導体物性の研究を行っているKlaus Ensslin教授のグループに滞在して、強いスピン軌道相互作用を有する狭ギャップ半導体であるInAsやInSb, GaSbなどを用いたトランジスタ素子の作製とその伝導特性評価、テラヘルツ素子への応用に関する実験研究を推進した。特に滞在中に得られた成果としては、固体中におけるスピン状態の電界制御の実現に重要な役割を果たす、強いスピン軌道相互作用が期待されるⅢ-Ⅴ族化合物半導体であるGaSb二次元ホール系の素子作製と伝導特性評価を世界で初めて実現した。この結果、GaSb系で量子ホール伝導を世界で初めて観測することに成功し、更にこの系でのホールの有効質量や、スピン軌道相互作用の強さの評価にも成功した。これらの成果は、単一の電荷やスピン状態の制御によって実現する量子情報処理に貢献する結果である。今後も当該グループとの共同研究を継続することで、次世代素子の開発を継続する予定である。一方で、InAsやInSb自己組織化量子ドットを用いたトランジスタの実験は、素子の抵抗値が極めた高く、伝導特性の観測が困難であった。原因としては、量子ドットに接触させるナノギャップ金属電極と、配線の金属材料との接触抵抗が大きくなっていることが判明したので、電極の配線幅を大きくするなどの工夫を施すことで、接触抵抗の低減を図る必要があることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ETH Zurichへの滞在によって、当初の予定に無かったGaSb量子井戸を活性層とするトランジスタの作製と、そのホール伝導の観測に成功した。GaSbにおいては、キャリアが正孔となることから、電子系に比べて非常に強いスピン軌道相互作用が予想される一方、核スピンの影響を小さくできることから、理想的なスピンQubit等の量子情報処理デバイスが実現できると期待される。本研究の推進により、エレクトロニクスの分野では開拓が極めて限定的であったスピン軌道相互作用の実応用が前進し、次世代エレクトロニクスに新しい局面を拓くことができると考えられる。一方で、InAsやInSb自己組織化量子ドットを用いたトランジスタの実験は、素子作製の困難さから、期待通りの進展が得られなかった。量子ドットに接触させるナノギャップ金属電極と、配線の金属材料との接触抵抗が大きくなっていることが判明したので、電極の配線幅を大きくするなどの工夫を施すことで、接触抵抗の低減を図る必要があることが分かった。以上を考慮すると、全体的には、目的実現に向けて着実に前進している状況にあると考えることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、GaSb量子井戸試料に関しては、バックゲート構造を採用することで、ホールの誘起をバックゲートで行う一方、表面ゲートで量子ドットや量子ポイントコンタクトなどの量子ナノ構造を形成することを目指す。これにより、従来我々が用いてきたボトムアップ構造の他に、新たにトップダウン手法によるテラヘルツ帯の単一電荷・スピン素子応用の実現を目指す。このために、今回共同研究体制を敷いたスイス連邦工科大学の研究グループとの国際的な共同研究体制を継続する予定である。 また、ボトムアップ量子ドット構造を用いた素子に関しては、これまでに特性評価が為された素子を用いて、そのスピン状態を主としてスピン軌道相互作用によって動的に制御し、それによる情報機能の付与に挑戦する。量子ドットでは、磁場方向やゲート電圧によって、スピン軌道相互作用によるスピン緩和時間やスピン操作速度を制御できることが報告されている。この特性を用いて、特に、二重結合QD構造におけるスピン状態のコヒーレント制御によるスピン量子ビット操作や、強磁性電極と結合した単一QDを用いた選択的なスピン励起(スピンポンピング)とその検出などに挑戦する。
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Research Products
(3 results)