2017 Fiscal Year Research-status Report
植物生体電位応答を利用した植物工場内の環境管理・制御システムの開発(国際共同研究強化)
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15KK0228
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
長谷川 有貴 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (90344952)
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Project Period (FY) |
2016 – 2018
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Keywords | 栽培環境制御 / エチレンガス / 収穫後果実熟度 / FETガスセンサ / 植物生体電位 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度9月から主にリンショーピン大学にて,SiCを基板としたField Effect Transistor (SiC-FET)構造センサを用いた栽培環境における雰囲気ガス管理のためのセンシングシステムの開発を目的とした研究を行った。実験では,果実の熟度との関連や,生長の促進あるいは阻害への影響がある植物ホルモンの一つであるエチレンガスをターゲットとし,植物自身から放出される低濃度のエチレンガスから,熟度コントロールのために保管庫内に流し入れる高濃度のエチレンガスまで広範囲に検知可能なガスセンサの開発を目指した研究を行った。その結果,SiC-FETセンサを適切な動作温度(200℃)で動作させることによって,高濃度に対する良好な感度と濃度依存性が得られた。 さらに,雰囲気ガスコントロールによる生体の活性状態を把握するため,植物の生体電位応答を同時に測定し,雰囲気ガス濃度と生理活性,さらには熟度との関係について検討を進めた結果,密閉容器内に置いた収穫後の果実の電位は,雰囲気ガス中のエチレンガスがある程度増加したところで徐々に増加する傾向があり,エチレンガス濃度との関連性を生体電位から捉えうることが示唆された。 当該年度は渡航期間の後半にあたる期間となったため,得られた成果を積極的に欧州などで行われる国際学会で発表し,その成果が高く評価され,ストックホルムで開催された学会ではIAAM Scientist Medalを,Asia Pacific Society for Computing and Information Technologyでは,Keynote Presentation Awardを受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
渡航期間の1年の中では,複数種類の感応膜を用いて高濃度から低濃度までの広範囲なエチレンガスを検知可能なガスセンサについて研究を進め,その特性を評価してきた。その結果,特に高濃度なガスのセンシング能力が高いことを示すことができたが,測定の幅を広げ,応用先での利用価値を高めるために,より低濃度なガスについてもの測定が必要となった。そこで,渡航先研究室と共同研究を進めており,極めて低濃度ガスの測定や環境に含まれる湿度の影響なども考慮した実験が可能なシステムを有するドイツ サーランダ大学の研究室に3週間程度滞在し,低濃度のエチレンガスに対する応答についても検討した。しかし,低濃度に対しては十分な感度を得るには至らなかったため,今後感応膜の成膜条件や動作温度,測定時の湿度などのパラメータを正確にコントロールした実験を行う必要があることがわかった。 生体計測に関しては従来から研究し,渡航先の研究室のシステムと組み合わせて測定した生体電位応答との関連について,新たな知見を得ることができた。しかし,目的とするガスの測定に最適な感応膜条件の割り出しなど詳細が十分に詰められていない部分があるとともに,生体電位応答との関連についても十分に考察できるだけのデータが整っていないため,やや遅れているといえるが,リンショーピン大学での計測は継続して行っている。 また,渡航期間の後半から着手していた有機電気化学トランジスタを用いた生体計測技術の開発については,デバイスの作製方法や実験条件の検討を進める段階には到達したものの,実際に予定していた植物ホルモンの影響を測定する段階までは進められておらず,この点については,現在もリンショーピン大学側とインターネットを介して議論を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は,収穫後果実への影響の大きい植物ホルモンの一つであるエチレンガスを低濃度から高濃度まで幅広い濃度範囲で測定可能なガスセンサの開発を目的として,2種類のゲート金属材料を用いたSiC-FETガスセンサによる各濃度ガスの測定条件と,そのときの生体電位応答との関係について検討を進めた。その結果,高濃度ガスの測定の最適条件は明らかにしたが,低濃度ガスの測定について課題があった。 そこで今後は,ゲート金属材料の変更や動作温度,測定時のガスセンサ周囲の湿度などのパラメータによる影響をさらに詳しく検討する必要がある。 また,渡航期間の後半から着手していた有機電気化学トランジスタを用いた生体計測については,デバイスの作製や周囲の温湿度モニタリングシステムの構築など,実際の測定に先駆けた実験,作業を進めることができたが,作製したデバイスによる実験や周囲ガスとの関連について十分に研究が進められていない。 そのため,次年度も引き続きコンタクトをとりながら共同研究を進めていくとともに,次年度中に数週間リンショーピン大学に滞在し,実験計画を明確化しつつ,今後の取り組みについても十分に打ち合わせ,共同研究を進める予定である。
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