2017 Fiscal Year Research-status Report
水中の疎水性表面間に働く長距離性引力の本質と起源の探究(国際共同研究強化)
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15KK0238
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
石田 尚之 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (80344133)
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Project Period (FY) |
2016 – 2018
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Keywords | 疎水性引力 / 原子間力顕微鏡 / 相互作用測定 / 作用メカニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、溶液中の疎水性表面に働く引力の作用メカニズムを明らかにすることを目的として研究を行う。本年度は、疎水性引力のメカニズムを明らかにするための検討を継続し、異なる疎水度の表面間に働く疎水性引力について評価を行った。具体的には、炭化水素の化学吸着により高い疎水度を付与したシリカ粒子と、疎水度を変化させたシリコン基板間の相互作用を、原子間力顕微鏡(AFM)のコロイドプローブを用いて直接精密測定を行った。 両表面の疎水度が等しい場合、疎水性引力は表面の水に対する接触角が90°より小さくなると不安定となり消失した。これに対し粒子表面の接触角が108°と疎水度が非常に高い場合、基板の接触角が40°とさほど疎水度が高くない場合でも、表面間には疎水性引力が作用しており、両表面の疎水度が等しい場合と異なる結果が得られた。また、引力の作用範囲と強さは基板の疎水度に依存して大きくなるという結果も得られた。 さらに、基板上の炭化水素の鎖長を変化させた場合や、末端にフェニル基やメタクリロキシ基、カルボキシ基を持つ疎水化剤によって基板を疎水化した場合の相互作用についても検討を行った。その結果、疎水性引力は一方(粒子)の表面の疎水度が十分高ければ、他方(基板)の表面の炭化水素の鎖長や末端官能基の種類によらず作用し、その大きさや作用範囲は基板の疎水度にのみ強く依存していることが分かった。また、疎水性引力は一般的に指数関数で表され、基板の疎水度が高い場合と低い場合では、この関数の減衰長が変化する傾向が異なることも分かった。 これらの結果と前年度までの結果より、基板の疎水度が比較的大きい場合には、キャビテーションによる気相架橋が引力の起源と考えられるが、小さいとキャビテーションは起こりにくく、他の起源の引力が働いていることを示唆しており、表面の疎水度によって起源が異なることが考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はオーストラリア国立大において、共同研究者であるVince Craig教授との共同実験を行った。本年度実施予定であったPicometre Amplitude Dynamic Force Microscopyによる表面付近の溶媒の挙動解析については、当該装置の現状での感度とS/N比等の問題から、期待された結果を得ることが困難であり、次年度さらに検討を継続する。その代替実験として、研究実績の概要で述べた、異なる疎水度の表面間に働く疎水性引力の評価を行い、この疎水性引力が一般的にほぼ指数関数に即して作用していることを突き止め、国際一流誌にその結果を発表することができた。このことは、疎水性引力のメカニズムを解析する上では重要な進展であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
H30年度は再度オーストラリアに滞在し、条件等を再検討した上で、Picometre Amplitude Dynamic Force Microscopyによる表面付近の溶媒の挙動解析を行う。溶媒分子挙動に与える、表面疎水度や溶媒の種類、温度の影響を詳細に検討し、引力の特性と比較することで、表面における溶媒分子の構造性や吸着層の有無および状態(厚さ・強度など)がどのように引力に関連しているかを見いだす。また、Vince Craig教授と共同で、得られた結果を統合し、得られた条件に対する疎液性引力の傾向と関数形を詳しく解析することで、熱力学的および流体力学的側面から引力の起源を推定し、モデル構築を行う。
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