2017 Fiscal Year Research-status Report
多様な送粉動物の利用における開花時刻の適応的意義(国際共同研究強化)
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15KK0249
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大橋 一晴 筑波大学, 生命環境系, 講師 (70400645)
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Project Period (FY) |
2016 – 2018
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Keywords | 種間関係 / 進化生態学 / 化学生態学 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度10月の渡航後から1月にかけて、渡航先の独ダルムシュタット工科大学ユルゲンス教授と共同で執筆する総説論文のための議論を重ねた。その結果、異なるタイプの送粉者がもたらす淘汰圧のちがいと、それによって形質にはたらくトレードオフは、特定の送粉者に対する花形質の「特殊化」だけでなく、幅広い種類の送粉者に対する「一般化」においても、重要な進化的駆動力になりうるとの推論に至った。この仮説の妥当性を示唆する先行研究の概説と、仮説を直接検証する方法の提案を軸に、花の形質進化における特殊化と一般化に関する統合的な理論的枠組みを提供する総説論文の執筆を開始した。 また2月より、ヤナギ属2種の自生地(4集団)における野外調査を開始した。デジタルカメラのインターバル撮影により、いずれの種も葯の裂開や柱頭の成熟は主に日没前後に起こることがわかった。この原因を、物理環境と送粉環境の両面からさぐるため、まず早春における気温の激しい変動がヤナギの繁殖におよぼす影響を、人工授粉と花粉生存率の両面から評価する実験をおこなった。さらに、昼の送粉者であるハナバチ類と夜の送粉者であるガ類がそれぞれもたらす受粉の量と質を評価するため、昼間のみ袋がけ、夜間のみ袋がけの野外実験をおこなった。花期が終了次第、これらの処理間で結実率と種子発芽率を比較する予定である。結果をもとに、受粉への貢献において昼夜の送粉者間で生じうる負の相互作用が、日没時の開花によって緩和されていること、これによってヤナギの「昼夜の送粉者への一般化」が可能となっていることを示唆したい。 この他にも、マルハナバチを用いた室内実験、マンテマ属植物を用いた野外実験の計画などについてユルゲンス教授と議論を重ね、来年度に実行できる見通しが立った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実績概要でも述べたとおり、総説論文の共同執筆、ヤナギ自生集団における野外調査、今後の野外実験のための議論など、渡航前にユルゲンス教授と予定していた計画はほぼすべて順調に進めることができている。さらに、総説論文の執筆中に、仮説の検証にマルハナバチを用いた実験環境が使えることに気づき、当初の予定には含まれなかった室内実験についても、来年度におこなう見通しを立てることができた。このように、計画は今のところすべて予定通り、順調に進展していると言ってよい。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度に引き続き、9月末の帰国までの間、総説論文の執筆、ヤナギ調査のデータ収集および解析、マンテマ調査、マルハナバチを用いた室内実験について、さらに意欲的に進める予定である。また、将来の共同研究のための予備実験として、GC/MS分析を用いて夏期に咲く数種の花の芳香に関する調査を行う(計画準備中)。以上のように、若干の追加調査、実験をのぞき、大幅な研究計画の変更は今のところない。
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