2017 Fiscal Year Research-status Report
トウヒの実生更新を制御する生物間相互作用解明のための微生物群集の構造と機能の解析(国際共同研究強化)
Project/Area Number |
15KK0271
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
深澤 遊 東北大学, 農学研究科, 助教 (30594808)
|
Project Period (FY) |
2016 – 2018
|
Keywords | ドイツトウヒ / 実生更新 / 倒木 / 分解 / 菌類 / 緯度分布 |
Outline of Annual Research Achievements |
トウヒ属は北半球の温帯以北の地域において広く優占する林業上重要な針葉樹であり、倒木上に実生が更新するという特徴をもつ。そのため、実生の定着には倒木の分解様式が大きな影響を及ぼす。菌類による倒木の分解様式は、倒木の構造成分であるリグニンとホロセルロースに対する分解比率の違いを類型化した「腐朽型」に区分され、褐色腐朽と白色腐朽が主に知られている。このうち褐色腐朽はpH が低下することなどによりトウヒ属実生の定着を阻害することが知られている。申請者がこれまでに行った調査では、緯度による気候条件の違いが倒木の菌類群集に影響し、これにより低緯度ほど褐色腐朽の頻度が高く、そのことが倒木上の樹木実生群集に影響することが分かっている。今後温暖化が進行すると、高緯度地域における倒木の褐色腐朽の頻度が増加し、それによりトウヒの実生更新が阻害され他の樹種の定着が促進されることで、森林植生に大きな影響を与えることが予想される。しかし、本邦よりも高緯度の地域における倒木の腐朽型の分布パターンや樹木実生との関係はまったく分かっておらず、世界規模での温暖化影響予測には至っていない。そこで本研究では、本邦よりも高緯度に位置する欧州の森林において、トウヒと同属のドイツトウヒの倒木を対象として、腐朽型の分布パターンと樹木実生の関係を緯度に沿って明らかにする。さらに、倒木の腐朽型を決定している菌類群集の発達メカニズムの解明を目指し、菌類生理学的な室内実験を行う。 2017年度は、主たる共同研究者であるイギリスのLynne Boddy教授の研究室に滞在して白色腐朽菌と褐色腐朽菌の競争が材分解に与える影響に関する室内培養実験を実施するとともに、チェコ共和国、ギリシャ、ポーランドの合計5カ所の森林において、ドイツトウヒ倒木の腐朽型と実生の調査を行った。また、合計300点あまりの材サンプルを採取した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
中央~南ヨーロッパに位置するチェコ共和国、ギリシャ、ポーランドにおいて合計5カ所の森林においてそれぞれ十分量のデータおよび材サンプルを採取することができた。2年間で10カ所以上の調査地でのデータ・サンプル採取を目指しているため、1年目の成果としては順調と言える。特にチェコ共和国では共同研究者に恵まれ、単独で質の高いデータが得られたため、2017年12月にベルギーで開催されたイギリス生態学会とヨーロッパ生態学会の合同大会においてその成果を口頭発表することができた。 室内培養実験についても、異なる2つの観点から白色腐朽菌と褐色腐朽菌の競争が材分解に与える影響に関する培養実験を行い、そのうち一つはすでに終了してデータを得ている。さらに、当初は予定していなかった土壌板や土壌動物による摂食効果を用いた培養実験にも取り組むことができ、菌類の生理・生態学的な特性に様々な方向からアプローチすることができている。 以上から、当初の計画以上に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、中央~北ヨーロッパでのフィールドワークを行い、より広い緯度範囲でのパターン把握に努めるとともに、培養実験の質・量を拡大することでデータの充実を測る。具体的には、ルーマニアおよびノルウェーでの調査を計画している。2017年度の調査地と合わせて10カ所以上の調査地でのデータから、ドイツトウヒ倒木の菌類群集、腐朽型、トウヒ実生更新の関係を緯度間で比較する。なお、チェコ共和国でのデータに関しては今年度中の早い段階で論文として出版を目指す。 培養実験では、温度が菌類の競争と材分解に与える影響に関する実験をできる限り多種の菌株を用いて実施する。また、2017年度に行った培養実験の結果の解析・論文化を進める。 得られた成果は、国際学会で順次発表を予定している。2018年度は、6月にEuropean Congress of Conservation Biology(フィンランド)、Ecology of Soil Microorganisms(フィンランド)、7月にInternational Mycological Congress(プエルトリコ)での研究発表を予定している。
|