2016 Fiscal Year Research-status Report
次世代高速鉄道のためのトンネル圧縮波変形メカニズムの数理科学的研究
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15KT0014
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
坂上 貴之 京都大学, 理学研究科, 教授 (10303603)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大縄 将史 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (10443243)
岡本 久 学習院大学, 自然科学研究科, 教授 (40143359) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2015-07-10 – 2019-03-31
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Keywords | 応用数学 / 流体工学 / 交通工学・国土計画 / 関数方程式論 / 関数論 / データ解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年6月に関係者の間で共同研究契約が完了し,鉄道総研側からの微気圧波の実データの提供をうけ,これを元にトンネル開口部の形状の微気圧波への影響を調べた.鉄道総研とは定期的に情報交換をする会合を実施,日本数学会や台湾での国際研究集会に参加して,数値解析に関する研究者との研究打ち合わせを行った.以下の二点の成果を得た. ①小澤方程式の数値解法:大縄は方程式の差分陰解法を提案し,それが安定的に解の正値性を保証する形で計算できることを示した.このスキームによりトンネル入り口における緩衝口の開け方が微気圧波に及ぼす影響を評価した.その結果,数km程度以下のトンネルであれば入口で窓が塞がっている方が強い微気圧波が出るという予想しやすい結果が得られる一方,トンネルが10km程度を超えると,入口で窓が塞がっている方がむしろ微気圧波が弱くなるという意外な結果を得た.また,定常摩擦項をなくした場合でも波形の急峻化には限界があり,伝播距離が10km程度を超えると微気圧波が減衰することが見出された.加えて,トンネル入り口において圧力およびその微分値も同一の値を持つ単純な入口波形に対して,微気圧波の強さを数値的に評価した.特に前半に圧力が急上昇し,後半に上昇速度が緩和される場合とその逆のケースを比較すると,前半に圧力が急上昇するケースの方が格段に高い微気圧波を生ずることが分かった.これは履歴効果によるものと考えられ,列車形状が大きく影響を及ぼすことを示唆する. ②トンネル微気圧波のデータ解析:中野はトンネル微気圧波の実データを主成分分析を用いたデータ解析を行い,主成分の特徴から微気圧波の特性の理解を可能にした.坂上はトンネル開口部の窓の開閉を0と1の二進列と見なすことでその離散的構造を力学系として距離を導入する方法を提案し,これらをあわせてこの微気圧波データと開口部データとの相関を検討した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り,鉄道総研と本研究に参加する研究者の間の研究契約締結が完了し,実際のデータを受け研究を本格的に進めることができたことは諸分野連携を本格的に推進するための重要なステップである.また,研究成果にあるように,このデータの主成分分析の結果から,主成分の形状を比較することによりこれまで先験的に知られていた微気圧波の特性がより明確に見えるようになった.これに,トンネル開口部の緩衝口の開口部のパターン列の有限二進列とそれに作用するシフト写像を用いて自然に導入される自然な距離との関連を見るというアイデアは,数学が入ることによって見出された新しい知見であり,諸分野との連携探索が生み出した成果である.また小澤方程式の数値スキームの開発は,差分法としては完成したものの,現場の要請としての高速・高精度化を目指して,従来の方法を超えるスピードのスキーム提案を目指すという新しい方向も同時に示されたことも連携が行われたことの成果である.以上のような観点から当初の予想通りの連携探索による新しい数理科学的研究が進んでおり,おおむね順調に進展していると判断している.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果と今後のさらなる連携の深化を図りながら以下の三点について研究を進める. ①小澤方程式の数値解析による微気圧波特性の理解:大縄が開発した差分スキームを用いて,テスト初期値や実データを用いてその時間発展特性の理解を深めて,その知見を数学的に特徴づけることを目指す.また,現場の要請からより高速・高精度な小澤方程式の数値計算スキームが望まれていることから,坂上と中野は,小澤方程式に含まれる-1/2階微分に相当する積分作用素に対して,補助関数を導入することで解消するという,Lombert & Mecrier らが提案した方法を応用し,これに二重指数型積分公式により高速に解く数値スキームの提案とその実装を目指す.2つの数値スキームの提案により,より多角的な微気圧波発生メカニズムの理解へとつなげる予定である.この数値計算の結果として,トンネル微気圧波の時間発展の複素特異点の挙動による理解へとつなげたい. ②トンネル微気圧波のデータ解析:昨年度に成功した主成分分析を用いた微気圧波データ解析結果とトンネル緩衝口の窓の開閉パターンとの相関を調べる.これをさらに発展させて,どのような開口パターンがもっとも効果的にトンネル微気圧波の形成を抑制するかといった点について提案できるようにする. ③鉄道総研とのさらなる連携:鉄道総研とはこれまで通り定期的な会合を持つことで,研究展開と鉄道総研の研究ニーズの方向性の合致を随時確認して連携研究が進むように取りはからう.また鉄道総研が開催する国際シンポジウムなどにも参加して講演発表やパネルディスカッションを行う. これ以外にも,昨年度までと同様に関連する研究集会や学会に積極的に参加し,関連する研究者との研究打ち合わせを行う.可能であれば,本研究成果について講演や論文につなげていきたい.
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Causes of Carryover |
契約締結までに当初予定より時間がかかり,実際のデータ提供が受けられたのが夏以後であったため,実際の研究と必要な数値解析の研究動向調査がメインとなったため,予定より研究経費の利用がすすまなかった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度までの繰越が大きいため今年度にすべてを使うことは難しく,来年度にも多少の繰越が見込まれるものの,今年度は順調に研究成果が出つつあるため,それに会わせて経費利用も進むものと考えている.
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Research Products
(1 results)