2015 Fiscal Year Research-status Report
多原子系反応の実効的反応座標の決定と反応設計に向けた体系化
Project/Area Number |
15KT0065
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
高口 博志 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40311188)
|
Project Period (FY) |
2015-07-10 – 2018-03-31
|
Keywords | 化学反応動力学 / 状態選別散乱法 / イオン分子反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度は、イオン分子線散乱実験装置の設計・製作を行った。高真空ポンプの調達・設置を含めてイオンビーム真空装置を完成させ、各構成要素の性能評価を行った。真空装置全体は、レーザー光イオン化源、中性分子線源、散乱・検出領域の3つの真空チェンバーから構成されている。量子状態を選択した分子イオンビームは、前駆体分子線にレーザー光を照射して発生させ、イオンベンダーによって前駆体と分離して反応領域に導入する。遷移状態近傍の運動様式の決定を目標としている本研究課題においては、イオンベンダーを含むイオン光学系に要求される特性は、低エネルギー(低速)条件下での安定したイオン軌道制御である。双曲面を持つイオンベンダー形状を、これが形成する静電場とその中でのイオン軌道に対する数値シミュレーションを用いて最適化した。レーザーイオン化後のイオン速度制御を行う電極群も同様にシミュレーション結果に基づいて設計・製作した。NO+イオンの飛行時間(TOF)測定により並進エネルギー制御性能を評価し、ほぼ設計とおりの速度制御が達成している結果が得られた。 中性分子線源はイオン分子線と直交する配置としたが、イオンベンダー通過後は、分子線・イオンビームは共線的に衝突する。ベンダー通過前の交差領域において画像観測法を適用することで、生成物の角度・速度分布の測定が可能になる。共線衝突配置は、イオンビームを分子線速度(~2000m/s)程度の速度に制御することで、イオン・分子反応の相対速度を極限的に小さくできる利点がある。製作したイオンベンダーに対する数値シミュレーションでは、設計上の理想条件ではあるが、相対速度0m/sで高い効率のイオンビームと中性分子との重なりが示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
開発する反応性散乱実験装置は、製作工程上は複数の真空チェンバーを接続した装置構造体と、分子種の発生・制御・観測の機能を持つ電極群・検出システムに分けられる。前者が本研究課題の特徴を担っている開発要素である。後者はイオン電極群と散乱領域を内包する真空槽であり、複雑な機構は持たないものの寸法・重量が比較的大きく、完成までに当初計画以上の製作日数を要した。当初計画では、真空槽全体とともに内部デバイスの製作を完了させて性能評価から予備測定を行う予定であったが、散乱領域の製作が遅れており予備実験に至っていない。特に中性分子線源は、採用する電磁バルブが3月末に納入されたこともあり、動作確認・性能評価が計画年度内に行われなかった。この電磁バルブは高強度パルス分子線を発生する仕様を持つ特注品である。状態選別分子イオンビームは光イオン化効率と空間電荷効果によってその発生密度の上限が制限されていることから、検出可能な量の生成物を得るためには、高密度の中性分子線源を実現する本電磁バルブの採用が不可欠であった。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度に計画していた散乱実験装置製作を完了させることを優先的に進める。今年度行ったシミュレーション計算によって示された結果を踏まえて、低エネルギー条件での散乱実験に向けた方針で、散乱領域の電極群を評価・改良する。これに関して、国内外の低エネルギー領域のイオン制御に関連する実験技術を持つ研究室から積極的に情報を得る。
|