2017 Fiscal Year Research-status Report
多原子系反応の実効的反応座標の決定と反応設計に向けた体系化
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15KT0065
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
高口 博志 広島大学, 理学研究科, 准教授 (40311188)
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Project Period (FY) |
2015-07-10 – 2019-03-31
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Keywords | 反応ダイナミクス / イオン・分子反応 / 状態選別散乱実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
29年度は、NO+状態選別イオンビームとメタンとの反応[NO+(v,J) + CH4 ]の動力学的研究を行った。NOイオンと炭化水素とのイオン・分子反応では、ヒドリド(H-)移動が電荷移動と競合するとされているが、反応分子の振動・回転状態および衝突エネルギーによって変化する反応分岐測定から、プロトン移動に比べて詳細が知られていないヒドリド移動機構を動力学的に解明することが、この測定の目的である。実験は前年度に製作した合流イオンビーム配置を用いた測定を主として行い、光生成したイオンビームの低速領域での並進エネルギー制御性を評価しながら、反応装置の開発・改良を進めた。並行して製作している交差分子線配置およびイオンガイド配置のために、高電圧パルス式画像観測電極を導入して、その動作確認をした。 前年度までの装置開発工程において性能評価のために用いていた固定波長光(213nm)による非共鳴イオン化法から、共鳴光イオン化法に切り替えて実験を行った。これにより当初から課題としていた特定の振動・回転状態NO+(v, J)イオンとの反応実験が可能となり、CH4中性分子線との衝突によりNO+ビームが30%程度ほど減衰する様子が確認された。一方で、前駆体分子線へのレーザー光集光条件では、微小体積中でのイオン生成により、低速時のビーム発散(空間電荷効果)が信号レベルを低下させる結果となった。これを解決するためにNOのA-X共鳴励起光と電子励起状態からのイオン化光の二波長のレーザーを用いる1+1’共鳴イオン化スキームを適用した。このイオン化スキームでは単一波長の光イオン化(1+1共鳴イオン化)に比べてイオン化効率が高いため、レンズ集光による高い光電場を必要とせず、低密度での大きなイオン発生体積が実現できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年に引き続き、ドイツ・ケルン大学に6ヶ月間滞在して、極低温イオン・分子反応の共同研究を行なった。ケルングループは、本研究課題で開発したイオン反応装置と同仕様のイオン制御機構を採用した極低温イオントラップ装置を使った先駆的研究を行っており、低エネルギーイオン制御に関する技術情報を研究現場で取得し、それを本研究課題に活用することが長期滞在の目的である。前年度も共同研究を通じて多くの改良のヒントが得られ、装置製作に反映されている。また、実験技術だけでなく、イオン化学研究の国際的拠点に滞在することで、多くの訪問者からイオン化学研究の動向についての意見・情報を収集することができた。滞在期間中は、極低温ヘリウムトラップを使ってプロトン化酸素(O2H+)とメチルカチオンクラスター(CH3+-(He)n)の高分解能赤外分光研究を行い、スペクトル測定・解析から成果発表まで行った。渡航中には広島大学で取り組んでいるイオン反応観測装置を用いた研究・開発は滞ることとなったが、当該実験技術の専門家との今後の研究を推進していく上で他では得がたい議論を深める機会を得た。特に、レーザー光イオン化による空間電荷効果の抑制法については有用な意見を得ることができた。本研究課題の最大の特徴である状態選別イオン発生にはレーザー光イオン化が不可欠であるが、ケルン大学グループを含めて多くの研究者が取り組んできた難易度の高い開発要素である。パルスレーザーによる共鳴イオン化法は多くの利点があるが、空間電荷効果を必然的に伴い、低速イオンの並進エネルギー制御性を低下させる。この問題に対してこれまで試みられてきた解決策とその効果についての実情を知ることができた。衝突エネルギー1eV領域での反応実験を目標としており、これが実現されていない点で予定から遅れているが、目標達成に向けての手段として国際共同研究ネットワークに参加した。
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Strategy for Future Research Activity |
分子の光イオン化は高密度の照射光ほど発生効率が向上するが、集光させたレーザー光の適用はイオン種の低速制御を困難にする。これを回避するために二波長のレーザー光による光イオン化法を採り入れて、低密度・高体積でのイオン生成によって空間電荷効果を抑制する。計画当初の非共鳴イオン化法から29年度は共鳴法に切り替えてイオンビーム強度は大幅に向上したが、単一波長を共鳴・イオン化の両方に使う1+1共鳴イオン化法でも照射光の前駆体への集光は必要であった。NOの共鳴光(~225nm 可変波長)とイオン化光(330nm 固定波長)を同時照射する1+1’イオン化を適用したところ、イオン化効率はさらに向上して、レンズによる集光を行わなくても十分な強度の状態選別NOイオンビームが発生できることを確認した。空間電荷効果はイオン発生密度に依存するが、低い密度で広い体積内で発生した全イオン数は並進エネルギー制御性には影響を与えず、イオン衝突実験には有効であると考えられる。予備実験では330nm(イオン化光)光源として色素レーザーシステムを使ったが光学系としては複雑である。今年度は、有効性が確認できた二色共鳴イオン化法を反応実験装置に簡便に組み込めるように必要な光源系を構築して、低エネルギー衝突実験を行う。 本実験手法の有効性を発揮できる反応系として、NOイオンとメタンの反応を対象としてきた。装置開発段階での性能評価にも有用な反応系であるが、比較的高い衝突エネルギー条件であれば、散乱実験が可能となった現状を踏まえて、反応系を他の炭化水素系に拡張して測定を行う。合流イオンビーム配置での測定だけでなく、交差分子線配置とイオンガイド配置の開発も継続して行い、それぞれ散乱分布と反応断面積が測定できるイオン・分子反応装置としての完成を目指す。
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