2016 Fiscal Year Research-status Report
転写制御ネットワークの頑健性と柔軟性、相転移の実験的検証
Project/Area Number |
15KT0074
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
和田 洋 筑波大学, 生命環境系, 教授 (60303806)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
矢田 哲士 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (10322728)
市瀬 夏洋 京都大学, 情報学研究科, 助教 (70302750)
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Project Period (FY) |
2015-07-10 – 2019-03-31
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Keywords | 棘皮動物 / 軟体動物 / 新規遺伝子 / 形態進化 / 砂時計モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
遺伝子ネットワークの柔軟性に関して2つの新たな知見が得られた。一つは、棘皮動物の幼生中胚葉の分化にかかわる遺伝子ネットワークに関するもので、ウニにおいてpmarがHesCを抑制するという道筋が新たに挿入されたと想定されていたことに関して、実際にはpmarと類似した遺伝子が棘皮動物で広く存在しており、新たに挿入された遺伝子はHesCであったことが明らかになった。HesCは棘皮動物で新たに獲得された遺伝子であり、βカテニンの下流でEts, Tbrといった中胚葉分化を制御する遺伝子が発現するまでの過程に、Ets, Tbrが発現するというアウトプットを維持したまま、上流のネットワークがどのように変化できるかを理解する鍵は、pmarの棘皮動物の祖先における機能と、その下流にどのようにHesCが導入されたかという点にあると、問題点をシャープにすることができた。また、同様に新規遺伝子が発生の最初期に導入される現象を軟体動物でも見いだした。軟体動物などを含む冠輪動物で新たに獲得されたホメオボックス遺伝子SPILEが、遺伝子重複によって数を増やし、動物極から植物極にかけて卵割期に発生運命を分配していく機構に関わっていることを明らかにした。特定の分類群にみられる新たな遺伝子が発生の最初期に機能を獲得する例としては、ショウジョウバエのビコイドが最もよく知られている。ビコイドの例はむしろ例外的な現象とも受け取られてきたが、新しい遺伝子が発生の最初期に機能を獲得する事例が多く発見されるにつれて、比較的広く見られる現象ではないかと考え始めている。発生の最初期を改変するとその後の発生に大きく影響が及ぶと考えがちである。その予想とは正反対の現象の背景にある生物学的なしくみを理解することで、発生過程の砂時計モデルの理解にも貢献すると同時に、形態を変える発生の進化の理解にも結びつくと期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
発生過程の柔軟性を理解し、その柔軟性から逸脱したときに形態がどのように進化するかを理解することを目指してきた。その中で、新しい遺伝子がむしろ選択的に発生の最初期の過程で機能を獲得する可能性がみえてきた。発生の最初期は卵で不均一に分布する少数の遺伝子の制御下で進行するため、ネットワーク構造が比較的単純なために、新しい遺伝子の参入が許容されているのかもしれない。それを前提にして、ではどのようなステップを経ればその後の発生に大きな影響を与えずに、新しい遺伝子の参入が許容されるのかを明らかにすることで、遺伝子制御ネットワークの性質を明らかにしていく。 また、研究分担者と共同して進めているin silicoでのネットワークの性質の制御でも、興味深い視点が得られつつある。細胞の分化状態はネットワークにみられる安定状態として理解できる。ネットワークに新たな安定状態が産まれる場合、すでにある2つの安定状態の混合状態が産まれやすいことが分かってきた。この点をウニの幼生骨片が、幼生中胚葉と成体骨片の混合状態として産まれたことと結びつけて、実験的に再現することを計画している。系のゆらぎが小さくなることで、従来、安定的に維持されなかった状態が安定的に維持される現象が理論的には予想できる。具体的には、温度がゆらぎに影響するため、低温で発生させることで準安定状態を現出させることができる。逆に、変態過程は、安定状態が不安定になることで進行するとも考えられる。実際に棘皮動物ではHspの活性が変態進行を抑制していることも知られている。hspと系の準安定状態の現出という新たな展開も見通せるようになってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、ヒトデの成体骨片分化と、幼生中胚葉分化のネットワークの推定に必要な一次データが蓄積されてきた。今後さらに詳細な遺伝子発現の時系列における変動を調べることで、ネットワーク推定を行えるようになるので、今年度中にはネットワークの推定と比較により、準安定状態の安定化の道筋を理解したい。 また、棘皮動物と軟体動物における発生最初期に見られる新しい遺伝子の機能獲得がどのようなステップを経て実現されてきたかについて、mRNAの注入、モルフォリノオリゴによる機能阻害実験を組み合わて中間段階を実現することで、評価していく。また、棘皮動物、軟体動物についてはトランスクリプトームデータも充実してきているので、さらに小さな分類群でも新しい遺伝子が新しい機能を獲得した事例が見られないか、スクリーニングをしていく。 遺伝子ネットワークの準安定状態が安定化することにより、新しい細胞タイプが出現するという現象に関しては、ヒトデを低温で飼育すること、Hspの機能を阻害することなどで、系のゆらぎの大きさを調整したうえで、どのような表現型が見られるかを調べるということもすすめる。 in silicoでは、遺伝子ネットワークの性質に関する理論的な研究と現実のネットワークの性質との対応に関する研究を進める。理論的には、遺伝子発現のノイズとしての変動(発生中の環境要因のゆらぎなどによるものを想定)やネットワークの変動(シス制御領域の突然変異などを想定)に対してがん形成を示すネットワークは、遺伝子への入力数はポアッソン分布に近い分散の小さいもので、遺伝子からの出力数はべき乗則に従うものであると予想される。これがマウスやヒト、酵母で明らかにされつつあるネットワークの現実の姿を対応しているか、解析を進めていく。
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Causes of Carryover |
研究計画が順調に進んだため、一部の実験について、試行錯誤の必要がなくなり、消耗品経費が当初予定していたよりもかからなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降の消耗品費として使用する。
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