2017 Fiscal Year Research-status Report
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15KT0082
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川口 真也 京都大学, 産官学連携本部, 特定准教授 (00378530)
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Project Period (FY) |
2015-07-10 – 2019-03-31
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Keywords | 学習 / シナプス可塑性 / 神経回路 / 可視化 / 蛍光イメージング / 光刺激 / 自己組織化 / 培養神経細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
動物の学習・記憶に代表される環境適応能は、外界からの入力に対応して神経ネットワークが自己組織的に形成され、また経験に応じて最適化されることにより確立する。本研究では、単純な神経回路に「学習能」を構成的に作り出し、それを可能にする神経細胞の基礎メカニズムを明らかにして神経系の適応的変化の本質を焙り出すことを目指す。具体的には、培養皿で自律的に形成される培養神経回路へ、電気や光で局所刺激することで外部環境入力を代替し、また一部の神経細胞活動を蛍光イメージングにより記録して取り出す。この出力を変換し刺激として神経回路に戻すことで、厳密にコントールした外部環境と神経回路のループ構造を構成し、神経回路の柔軟性の秘訣に迫ろうとすることが本研究の特徴である。 本年度は、前年度までに開発を続けていた細胞膜電位を検出する蛍光プローブのさらなる改変により、膜電位変化をより忠実に検出する高速型の分子を得ることに成功し、また顕微鏡システムの改良により複数の神経細胞から同時に膜電位変化を数分間以上にわたり連続して記録することを可能にした。また、シナプス可塑性を誘発する刺激を神経回路に与え、個々の神経細胞の活動パターンがどのように変化するかについてのデータを蓄積した。それにより、培養皿の神経細胞活動の可塑的性質の基本特性が明らかになり、実際に機械操作をさせる今後の研究展開の基盤となる知見が整いつつある。 一方、培養皿上の神経細胞群の可塑的性質に関して、軸索およびその終末での動的なメカニズムを直接電気生理学記録を駆使して新たに同定し、論文3報を公刊した(Zorrilla de San Martin et al., 2017; Kawaguchi and Sakaba, 2017; Yamashita et al., 2018)。こうした知見は、培養神経回路が学習能を発揮する基礎メカニズムの理解を深めるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
培養皿上に構成させた神経回路の活動を、非侵襲的に光計測するという技術の確立に関して、独自開発を続けている細胞膜電位感受性蛍光プローブ分子が極めて有効な技術レベルに到達した。それにより、顕微鏡の光学系改良と相まって、複数のプルキンエ細胞の活動電位発火を、ミリ秒レベルの正確さで数分間以上にわたり安定に記録し続けることが可能になった。さらに、神経ネットワークに可塑的変化を起こす刺激を与え、その前後での活動パターンの変化を明確に捉えることも実現している。 こうした研究進捗は、当初の計画通りである。 本年度得られた膜電位プローブの高機能化は、当初は想定していないほどの技術進展であり、精密に神経ネットワークの機能変化を捉えることが可能になる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初想定していたよりも精密に細胞膜電位を非侵襲記録できる技術を得つつあることから、それを最大限に利用して、可塑性を起こした際の神経回路の機能変化について詳細な時空間情報を得る。それにより、培養皿で学習能を実現させる際に重要となる神経回路と機械を繋ぐインターフェースの情報変換様式の設計を効率化することを構想している。 また、培養神経回路のダイナミックな情報処理の基盤となる未知のメカニズムについても、従来型の研究手法では不可能であった時空間動態解析が蛍光イメージングにより可能となる。そこで、新技術を駆使した探索的な観点でのデータ取得・解析にも取り組み、学習能を実現する神経系の可塑的性質の理解を深める。
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Causes of Carryover |
消耗品等に関して、他の研究テーマと共通したものがあったため節約できた。また、研究機関の異動により、当初予定より実験時間が短くなったことも、研究経費の節減に寄与した。 さらに、次年度から自身の独立した実験室スペースを確保する目途が立ったため、そこで必要となる研究環境整備や薬品類の購入を考慮して、研究経費を可能な限り次年度に取り置くように努めた。 こうした理由で捻出した研究経費は、次年度に顕微鏡の光学系向上や培養・分子生物学実験の試薬や装置類購入などに利用し、効果的な研究推進に生かす。
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Research Products
(4 results)