2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15KT0087
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
佐甲 靖志 国立研究開発法人理化学研究所, 佐甲細胞情報研究室, 主任研究員 (20215700)
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Project Period (FY) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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Keywords | シグナル伝達 / ナノマシン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、上皮成長因子受容体 (EGFR) による細胞膜情報処理システムの再構成系を開発し、情報伝達と分岐の分子機構を解明することを目的とする。EGFRの分子数と密度を制御してナノメートルサイズの微小平面膜に再構成し、細胞内外の情報伝達、情報処理反応場の構築、動的な情報分岐・処理能力の創発に関する構成的システム研究を行う。生体膜における複雑に絡み合った反応の実体を捉えて、リポソームなど再構成膜系を利用した構成的システム研究へ基盤情報を与えるとともに、分子ダイナミクスを利用した高機能素子開発のヒントを得ることを目指している。 再構成系は直径10~15 nmの微小平面膜であるナノディスクを基盤として作成する。ナノディスクは脂質2重層の側面をMSP蛋白質2分子で取り囲んで安定化させたものである。EGFRを数分子単位で膜に取り込ませ、表裏両側から操作できるナノディスクの利点を生かして、EGFRの分子反応を1分子計測する。EGFRはEGF結合により2量体内でリン酸化酵素活性を促進され、自己リン酸化、リン酸化認識蛋白質との結合、リン酸化などを行う。 本年度は再構成膜系(ナノディスク)作成法の確立と評価、さらに再構成系における機能計測法の確立を目標とした。再構成法と精製法を最適化し、生化学・形態学、さらに1分子計測によって目標通りの再構成膜系が得られていることを確認した。また、膜系に再構成されたEGFR分子が酵素活性を保有していることが確かめられた。1分子計測のために膜系をガラス基盤に固定する方法、膜内分子の相互作用を1分子計測する方法も確立された。1分子機能計測のための蛍光蛋白質試料の作成も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下のように研究は各項目とも順調に進行している。 1.再構成膜系は、リコンビナント精製したEGFR-GFP分子とナノディスクを構成する蛋白質(MSP)と脂質を界面活性剤中で混合して構成する。SF-9細胞からバキュロウイルスの発現系でEGFR-GFPをリコンビナント精製する系を立ち上げ、再構成と精製の条件を最適化して、EGFRを含む目的の再構成膜を充分量得ることに成功した。膜の評価は電気泳動による蛋白質分析と、ネガティブ染色法による電子顕微鏡観察で行った。 2.EGFRはチロシンリン酸化酵素活性を持ち、活性を保った2量体として再構成されるとATP依存的な相互リン酸化が起こる。抗リン酸化ペプチド抗体によるブロッティングで、再構成膜系における相互リン酸化反応を確認した。 再構成膜系をMSPに付加されているHis-tagで抗His-tag抗体を介してガラス基板に結合し、全反射蛍光顕微鏡で1分子観察を行った。膜系を抗体特異的に基盤に結合させる条件を開発し、単一膜系からの蛍光発光強度を定量した。1分子ないし2分子のGFP蛍光強度に相当する信号が得られ、3分子以上の信号はほとんど検出されなかったことから、作成した再構成系は1~2分子のEGFR-GFPを含むと考えられる。 3.EGFRのリン酸化を認識する細胞質蛋白質は多数存在するが、RAS-MAPK回路に繋がるGrb2やShc, AKT-PKB回路に繋がるPI3K p85などが代表的なものである。これらの蛋白質のリコンビナント精製系を立ち上げ、Grb2, Shcはすでに精製蛋白質を得た。その他の蛋白質も精製準備中である。また、複数蛋白質間の反応を同時に1分子検出するため、2色の1分子計測顕微鏡システムを構築した。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、本年度の研究計画はおおむね順調に進行し、今後は当初予定通りに本格的な1分子計測と解析を開始する。 また、EGFRは2量体だけでなく3量体以上の高次多量体を形成していることが示唆されている。高次多量体の再構成系を作るため、繰り返しユニットの多いMSPによるナノディスクや、バイセルを基盤とする再構成系の開発に取り組む。 さらに、再構成法の最適化により、充分量の試料が得られる様になったため、当初計画には無い詳細な構造解析を計画している。無染色急速凍結電子顕微鏡法による単粒子構造解析を行う。EGFRは一回膜貫通型蛋白質であるため、これまで膜貫通領域を含む全体の構造解析はほとんどなされていない。唯一の例はミセル中2量体のネガティブ染色電顕観察であるが、活性化に重要と示唆されている膜脂質と蛋白質膜近傍領域の相互作用は保たれていない。再構成膜中での構造解析は、EGFRのみならず多くの一回膜貫通型蛋白質の研究に重要な進捗をもたらすと期待される。
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Causes of Carryover |
年度後半になり、1分子計測用蛍光顕微鏡の光源として使用していたレーザーに不具合が生じ、原因の究明と対策に時間を使っていた。結局、新しい装置を再購入することになったが、購入手続きの関係から年度内納入が不可能になった。現在、既に発注手続きを行っており、2016年7月の納入予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
固体レーザー(488 nm, 200 mW) 1台 (見積価格160万円) を購入する。 機種選定が遅れたため、次年度使用額と差額があるが、残りの金額は研究に必要な消耗品の購入に充てる。
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Research Products
(5 results)