2015 Fiscal Year Research-status Report
植物の発熱現象において観察される自己相似性と長期記憶過程の数理的解析
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15KT0101
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
伊藤 菊一 岩手大学, 農学部, 教授 (50232434)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川崎 秀二 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (10282922)
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Project Period (FY) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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Keywords | 数理科学 / 長期記憶性 / 自己相似性 / 発熱植物 |
Outline of Annual Research Achievements |
ザゼンソウ肉穂花序温度データを基に、「各時間スケールでの分散 vs 時間スケール」の両対数プロットをとり、当該データが自己相似性および長期記憶性を有しているか否かを検討した。また、多数のプログラム開発により、温度制御の情報として現時点温度から次時点温度へのジャンプ量(差分)をとり、中心温度より低い側および高い側でのジャンプ量の分布を調べる事を行った。低い側では中心温度へ向かって体温を上げようとする勢いが優勢ではあるものの、体温を下げようとする劣勢も同時に存在する事が分かった。逆に、高い側では、体温を下げようとする優勢な勢いと同時に上げようとする劣勢も存在する。各温度でその分布をとり、横軸を温度として平均値をプロットすると、右下がりの直線になる傾向を視認する事ができた。ただ、温度制御メカニズムと関わる事だが、この直線は傾きが小さく、中心温度へ向かっての制御は予想より緩やかである。この事と発熱・吸熱のシーソーゲームの関連性は今後の考察を要する。また、ザゼンソウ肉穂花序における呼吸反応に関する一連の解析を行った結果、当該器官における呼吸制御にはユニークな化学平衡が関与していることが判明した。この化学平衡は発熱反応と吸熱反応から構成されており、本植物の恒温性に深く関与していることが予想された。さらに、本研究に関し、オーストラリア・アデレード大学のRoger Seymour教授とディスカッションを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究において、ザゼンソウの発熱現象は、肉穂花序と呼称される特異的な器官において観察されることがわかっているが、当該器官における恒温性のメカニズムは不明のまま残されていた。本研究においては、肉穂花序における温度時系列データ等を基にした数理的な解析を行い、本植物の恒温性に関わるメカニズムを明らかにしつつある。特に、化学平衡に焦点を当てた解析は、英国科学誌Scientific Reportsに掲載されるなど、一定の成果を挙げたものと考えている。さらに、その後の取り組みとして、体温が中心温度より下がれば上げようとする(上がれば下げようとする)「中心温度への揺り戻し」の状況を調べ、その力学系メカニズムを特徴付けるための解析に着手した。上記の化学平衡からの示唆を受け、体温が下がった時に上げようとするだけでなく下げようとする勢いも(劣勢ではあるが)同時に働いている事のモデル化を、各温度で試みた結果、温度上昇因子及び下降因子のランダムな発生量分布を組み合わせた一種の混合Poisson分布によるモデルが、非常に良くフィットしている事が分かった。現在は中心温度からの温度差の関数として分布パラメータをモデル化する解析を行っている。今後、さらに客観的推論とするための手続きや、もう一段踏み込んだメカニズムモデル化を経て成果としてまとめたいと考えており、新年度の研究の方向性として良い観点が早い段階から定まってきた。このように、本研究はおおむね順調に進捗していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、ここまでの成果である「呼吸代謝と化学平衡の関係性」、そして「中心温度への揺り戻しメカニズム」をそれぞれ要素概念として解析を深化させると共に、両者を相互に関連付けた俯瞰的な理解へ向けての考察も進めていきたい。例えば、前者については、化学平衡と混合Poisson分布が示唆する「発熱・吸熱のシーソーゲーム」の力学系クラスの特徴付けについて考察したい。後者については、可逆的な発熱・吸熱反応における反応エネルギー(エンタルピー)の変化の挙動と混合Poisson分布のパラメータの関数関係をモデル化する事が考えられる。前者は、一定周期でなく現在温度値に応じた単振動のような系として、指数関数を解とする線形微分方程式の特異版であるフラクショナルなq-指数関数を解とする非線形微分方程式に従うような系ではないかとの予想を持っており、その定式化・検証から始める事が有望であると考えている。Poisson混合分布モデルが有力候補となっていてGauss分布からかけ離れた分布である事から、温度制御期は少なくとも古典的な系の相ではなく、非線形性を含む非平衡の臨界相を呈している可能性が高い。それは体温時系列の相関が高い事からも既に示唆されているが、温度上昇因子のミクロな相互作用が強まっている結果、体温時系列の相関が高まっている、そしてさらにマクロな「発熱・吸熱のシーソーゲーム」をもたらしている、との流れの理解へつなげたい。そうして、最初に述べた自己相似性指数との関数関係までのモデル化のヒントになれば良いと考えている。
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Remarks |
岩手大学ホームページ(ニュース)における「受賞・成果」として掲載された。
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Research Products
(6 results)