2016 Fiscal Year Research-status Report
低投入栽培下でのイネ共生細菌群集の動態とその制御メカニズムの解明
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15KT0115
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐々木 和浩 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (70513688)
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Project Period (FY) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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Keywords | 植物共生細菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
先進国では、農業からの環境負荷を軽減するために、肥料や農薬を使わない低投入持続型農業が提唱されている。しかし、これらの栽培方法では、単位面積当たりの穀物生産量を現在以上に増大させることは難しい。そこで、低投入持続型農業での増収の実現に向けて、植物共生微生物の力を利用する試みがなされている。すでに商品開発されている製品の中には、「イネファイター(前川製作所)」という、Azospirillum属細菌を含む微生物資材がある。イネファイターを施用した圃場の水稲は穂数が多くなり、多収となった例が報告されている。この穂数を増やす接種効果には、品種間差異も認められている。さらには、植物の免疫力も高め、いもち病等に対する抵抗性を向上させるという報告もある。一見するといいことずくめのように聞こえるが、微生物資材の効果は、化成肥料に比べて不安定であり、効果を発揮する条件(土壌や気象等)が限られる傾向にある。農業現場で、植物共生微生物の力を利用するには、植物を含めた環境と微生物の相互作用を解明していく必要がある。 申請者は、イネの植物共生細菌に着目し、共生細菌群集に影響を与える要因を明らかにしてきた。イネ共生細菌群集は部位によって異なっており、根では、窒素施肥の影響が大きく、葉や茎では品種の違いが影響を及ぼしていることが分かった。次の課題は、葉や茎で影響を受けている共生細菌種を特定し、それを制御する宿主側の機構を明らかにすることである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
無施肥圃場で栽培したイネ4品種(コシヒカリ、カサラス、タカナリ、IR64)から、移植期、分げつ期、幼穂形成期、出穂期、完熟期での上位葉から細菌細胞を分離した。遺伝解析を行うためには多検体を扱う必要があるので、細胞分離方法をより簡便な葉面から集菌する方法を試みた。ユニバーサルプライマーで使用する前に、優占している場合の多いMethylobacterium属細菌に着目して、プロファイルを解析した。共生細菌のプロファイルは、Automated Ribosomal Intergenic Spacer Analysis (ARISA)法により解析した。 分げつ期のサンプルでは、検出されるピークが反復ごとに異なり、共生細菌群集が安定していないと推察された。その後、幼穂形成期、出穂期、完熟期では、プロファイルが安定し、収束していく傾向が認められた。移植期からはシグナルが検出されなかったため、比較には含めなかった。植物の生育ステージ及び部位により、共生細菌群集が変化することを明らかにすることができた。 本年度は、植物の生育ステージが共生細菌群種に与える影響を明らかにすることを目的とした。コシヒカリとコシヒカリを遺伝背景とした出穂期が約2および4週間遅くなる系統を栽培した。これにより、共生細菌に与える影響が、生育ステージなのか、生育環境なのかを明らかにすることができる。現在、シークエンス用に細胞を濃縮している。
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Strategy for Future Research Activity |
植物の生育ステージ及び部位により、共生細菌群集が変化することを明らかにすることができたので、各ステージで変動している共生細菌群集を特定する。次世代シークエンサー(Illumina MiSeqを用いた16sアンプリコンシークエンスを行う。細菌群集が安定している時期のコシヒカリとカサラスの細菌群集を比較する。最も品種間差異が認められる時期において、特定の部位を、遺伝解析集団からサンプリングする。16sアンプリコンシークエンスを行い、それぞれのOTUの存在比を表現型値とすることで、検出されている細菌種と関係する遺伝子座が検出できる。これにより、共生細菌の多様性を制御する遺伝子座を検出できる。共生細菌群集を制御する遺伝子座が明らかになると期待される。
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