2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15KT0117
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
高橋 伸英 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (40377651)
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Project Period (FY) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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Keywords | 好気性発酵 / 高CO2濃度 / 発酵ガスによる植物成長促進 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はバイオマスを微生物により好気的に発酵させ、生成する二酸化炭素やその他の揮発成分をハウス等の施設栽培で植物に供給し、作物収量の著しい増大を実現できる栽培技術の確立を目指している。 H28年度は、バイオマスを好気性発酵させ、生成した発酵ガスを栽培装置に直接供給し、植物成長への影響を調査した。カラマツのかんな屑に発酵鶏糞と微生物供給剤を所定の割合で混合し、含水率を調整したものを反応器に充填した。反応器を40℃の恒温水槽に浸し、室内空気を反応器下部から一定量供給し、好気的に発酵させた。反応器から排出されたガスを直接栽培用のチャンバーへ供給した。栽培用のチャンバーは透明プラスチック製で、内部にファンと温湿度・CO2濃度センサーを設置した。また、上方に植物栽培用の蛍光灯を設置した。このチャンバー内にバーミキュライトを入れたポットを6個置き、シロイヌナズナを栽培した。また、対照実験として、発酵ガスを供給せず空気のみを供給したチャンバー内でも栽培を行った。チャンバー内に苗を入れてから約4週間後、葉の枚数、長さ、地上部生・乾燥重量を測定した。また、反応器出口でガスを採取し、有機揮発成分をGC-MSで分析した。 栽培実験開始後約2週間は、発酵ガスを供給したチャンバー内で有意に高いCO2濃度が測定され、好気性発酵が起きていることを確認した。栽培終了後の地上部重量の平均値は発酵ガスを供給した方が高い値を示したが、有意差はなかった(p>0.1)。この原因として、チャンバー内が高湿度であったこと、光量不足などが考えられた。また、GC-MSによる分析では、発酵ガス中にはアセトインや2,3-ブタンジオールのような植物成長を促進すると報告のある揮発成分は検出されず、逆に、植物の成長を阻害する成分が検出された。これもCO2濃度が高いにも関わらず、成長があまり促進されなかった理由の一つとして考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
木質バイオマスの発酵ガスを植物に供給し、成長への影響を調査したが、CO2濃度が高い発酵ガスを供給したにも関わらず、植物の成長はそれほど促進されなかった。この理由を調査するためにチャンバー内の湿度、光量の影響を調査したが、どれも決め手にはならなかった。また、発酵ガス中に植物の成長を阻害する成分が検出され、それが原因である可能性が示唆されたが、定量的な評価を行っていないため、実際にどれほどの影響があるかは不明である。一方、参考文献で報告されている植物成長促進効果のある揮発性物質の生成も確認されなかった。この原因として、使用している原料となる有機材料が異なること、および、使用している微生物種類が異なることが考えられた。そこで、文献と同じ微生物を入手し発酵を行ったが、やはり目的とする揮発性物質の生成は確認されなかった。このように、発酵ガスを植物に供給し栽培実験を行ったが、期待された結果が現在のところ得られていない。また、その原因を調査したが、その特定には至っていない。ただし、必ずしも発酵ガスが成長によい影響を与えるとは限らないことは予想した範囲にある。また、今年度実施する予定であった異なるバイオマス種類(野菜残渣)の発酵挙動、発酵ガス調査は27年度に行っているため、全体としての遅れはそれほど大きくない。よって、進捗はやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
一つ目は、高濃度CO2を含む発酵ガスを植物に供給しても成長促進効果があまり見られなかった原因について調査する。発酵ガス中に成長阻害物質が含まれていることが原因の一つとして考えられたため、これを定量し、文献などの情報を調査し、成長阻害が実際に引き起こされる濃度か判断する。仮に、定量的にも阻害効果が認められる場合には、その除去方法について検討する。 二つ目は、文献で報告されている植物成長促進効果のあるアセトイン、2,3-ブタンジオールの生成条件について調査する。文献では発酵原料として寒天培地を使用していたが、本研究ではリグノセルロース系のバイオマスを原料としている。リグノセルロース系はリグニンが存在するために、文献で使用している微生物では分解ができず、そのため目的とする揮発性物質が生成しないことが考えられる。そこで、リグニンの分解を得意とする微生物を併用することにより、リグニンをまず分解し、その後残留したセルロースや糖を文献と同じ微生物により分解することにより、目的とする揮発成分が生成するか調査する。 また、成長促進揮発性物質の生成については木質バイオマスであるカラマツのみを用いて調査してきたが、リグニンが少なく、より容易に分解される野菜残渣を原料とした場合についても調査する。さらに、野菜残渣を原料とした発酵実験を行い、その発酵ガスを栽培装置に供給し、植物成長への影響を調査する。
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Causes of Carryover |
昨年度提出した使用計画では、H28年度に海外で開催される国際会議で研究発表をする予定であったが、研究の進捗により、H29年度に実施するのが妥当であると判断したため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、H29年度請求額と合わせて、H29年度に香港で開催される国際会議に代表者と大学院生1名が参加する旅費および参加費として使用する。
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Research Products
(3 results)