2015 Fiscal Year Research-status Report
スマートフードシステムと食のライフスタイルがもたらす環境効果分析
Project/Area Number |
15KT0121
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
鷲津 明由 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (60222874)
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Project Period (FY) |
2015-07-10 – 2019-03-31
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Keywords | スマートフード / 食生活 / 再生可能エネルギー / 水素 / 全国消費実態調査 / 食MAP / 産業連関表 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,未来型システムによって,食生活からの環境負荷をどの程度削減することができるかを定量的に確認することである。すなわち,食生活からの環境負荷の削減には,農業,食料産業の省エネ・効率化は欠かせない一方で,ICTなどの最新のスマート技術が問題の解決にどの程度貢献できるのかを確認することがその研究の目的である。これまでの環境家計簿分析結果によれば,効用水準を落とすことなく食料費からのCO2誘発を低減するための課題として,以下があった。(1)環境負荷が低い給食サービスの適切な利用や食品ロスの削減(2)食事の提供に付随するエネルギーその他の資材節約(3)食材そのものの環境負荷に加え流通過程の環境負荷の低減。これら課題の同時的な克服のために,スマートフードシステムを提案できると考える。スマートフードシステムとは,再生可能エネルギーを活用した植物工場,エネルギーマネジメントシステムで最適管理のされたスマートな次世代給食システム,電気自動車や燃料電池自動車などの次世代配送車などを利用した未来型の食料循環システムのことであると同時に,費用を大幅に増やすことなく消費者の利便性を増す(利便性の向上には健康に良い,高齢者などの買い物弱者の食生活を豊かにする,などのことも含められる)サービスシステムでなければならない。つまり,最新の科学技術を消費者の多様な嗜好性に的確にマッチングさせることが,スマートフードシステムには求められる。 実質的に半年の研究期間であった研究初年度には,まず,「スマートフードシステム」というキーワードによって,現在どのような取り組みが実施されているかを広くサーベイすることに取り組んだ。次に消費者の食に対する多様な嗜好性を定量的に分析するためのデータベースとして「食MAP」データの入手と分析の準備作業に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「スマートフードシステム」というキーワードで取り組まれている(または取り組みが開始されようとしている)事例を確認するために以下のことを行った。(1)全国にレストランチェーンを展開している大手事業者にヒアリングを行い,同社が消費者のニーズに合わせて効率的にメニュー開発に取り組んでいる状況と最近の消費者の嗜好性についてヒアリングを行った。(2)大手建設会社が現在取り組んでいる,北海道における家畜糞尿を利用したバイオガス利用施設での食料循環メカニズムについてヒアリングを行った。この施設では,さらにバイオガスを水素化して,エネルギーの有効活用を図るとともに,水素化する際の副産物として発生するCO2を温室栽培作物に効果的に施肥することにより,従来生産物より高付加価値商品ができる可能性に取り組もうとしていることが分かった。(3)地方における生活協同組合が,従来的な宅食サービスを行っている小規模事業者の事業ノウハウを,IT化することにより,消費者のニーズにマッチした食材提供サービスに取り組んでいる状況をヒアリングした。ITの利用により,高齢者の多い地方の買い物弱者に大きな利便性が提供されると同時に,好みのメニューに応じた食材が届けられることにより,食品ロス等の削減が見込まれると考えられた。そのうえで,消費者のメニュー選択における嗜好性について詳しく分析するために,食卓実態データベース(食MAP)(http://www.lifescape-m.co.jp/)の分析に着手した。食MAPは首都圏在住のモニター(2人以上世帯360世帯,単身世帯360世帯)が入力する毎日の食卓情報(メニュー・材料),購買情報(商品), 家庭内在庫情報(商品)のほか,なぜそのメニューを選んだかなどの意識情報を収集したデータベースである。これにより消費者が現実にスマートフードシステムに求める目的を的確に把握する。
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Strategy for Future Research Activity |
消費者の利便性(利便性には健康に良い,高齢者などの買い物弱者の食生活を豊かにする,食品ロスが減るなどのことも含む)を高めるようなスマートフードシステムを実現するには,どのようなときにどのような消費者にどのような食事または食材を提供すればよいかが検討されなければならない。そこで今年度はまず,食卓実態データベース(食MAP)を用いた分析により,このことを検討する。具体的には,食MAPにおける約1000種類のメニュー分類と約2000種類の食材分類を,適切なカテゴリーに分類し,各カテゴリー分類別もしくはメニューカテゴリーと食材カテゴリーの交差変数(たとえばメニュー「和食」かつ食材「鮮魚」であることを示す1/0のダミー変数)に対して,それを選択する人は,どのような属性(年齢,職業の有無,など)を持ち,どのような意識(食生活や食材購入に対する意識,など)を持っている人であるかをプロビット・モデルなどの計量分析手法を用いて分析する。 再生可能エネルギーを有効活用したスマートフードシステムの分析については,「農業残渣を活用したバイオガス利用→水素化(副産物としてCO2の発生)→バイオガスや水素の燃料利用とCO2施肥による農業生産物の高付加価値化→消費者の満足度の向上」という好循環がもたらす経済・環境効果の試算を目指して,このようなシステムを現実に模索している事例を詳しく調査するとともに,分析のためのデータベース構築に努力する。 最後に,スマートフードシステムの構築は,究極的には消費者の効用を増大するものでなければならず,特定のスマートフードシステムによる効用増大効果が定量的に示される必要がある。それは,伝統的に消費者余剰の計測によって可能とされるので,全国消費実態調査のミクロデータを利用するなどして,詳細な需要関数の測定に向けて努力する。
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Causes of Carryover |
研究初年度に,スマートフードシステムに向けての実社会の取り組みをサーベイするための旅費,および謝金等を見込んでいたが,ヒアリング先の協力等が得られたため,大幅に経費を節減することができたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
政府公表の2011年産業連関表を,再生可能エネルギーおよび水素エネルギー部門について拡張した「次世代エネルギーシステム分析用産業連関表」の作成費用に削減できた資金を上乗せし,より精度の高い成果物の作成を目指す。また,研究計画時点にはなかった,同表の地域間表化を視野に含められるよう努力する。
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Research Products
(17 results)