2015 Fiscal Year Research-status Report
旧ソ連諸国の戦争記念碑比較研究:権威言説の視覚化と地域性
Project/Area Number |
15KT0125
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
前田 しほ 東北大学, 東北アジア研究センター, 特任助教 (70455616)
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Project Period (FY) |
2015-07-10 – 2020-03-31
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Keywords | ソ連文化 / ナショナリズム / 戦争記憶 / 第二次世界大戦 / ロシア / 記念碑 / 愛国主義 / イメージ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、戦争記念碑に注目し、旧ソ連の愛国主義とナショナリティの統合を文化史的視座から調査・分析・考察するものである。したがって各年度旧ソ連各地での現地調査を計画し、初年度である平成27年度はロシアを対象として、首都モスクワと占領地でもある地方都市スモレンスクでの調査を実施した。モスクワでは、これまでの調査で視察している主要な博物館・美術館・記念碑の継続調査を行ったほか、郊外のモスクワ攻防戦の激戦地や近郊のアフガン戦死者追悼碑などを追加し、調査域を広げた。スモレンスクでは、現地のジャーナリストの協力を得て、興味深い調査を実施することができた。市内の戦争記念碑、郊外の「カティンの森」などの記念碑調査を行ったほか、ドイツ兵墓地やドイツ軍の地下基地跡など記念化されていない負の記憶の調査に足を延ばすことができた。また、現地の「解放」記念式典や、近郊の激戦地域で発掘された戦死者の追悼式典を視察した。これに加え、帰還兵、ナチス・ドイツの強制収容所の生存者や、戦死者発掘隊、現地住民への聞き取りを行い、公定記憶としての「戦勝」の記憶とは異なる次元で保持されてきた民衆の戦争記憶に迫ることができた。 そのほかに、ソ連の記憶との比較のため、ベトナムでのベトナム戦争戦跡調査を実施した。 成果の発信としては、国際会議での口頭発表・パネル組織(英語)を行い、論文1本(日本語)刊行、共著書1本(ロシア語・英語)が刊行されたほか、論文1本(ロシア語)を海外の査読誌に投稿した。総じて、国内外で精力的な成果発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の現地調査は、スモレンスクでは現地協力者に恵まれ、記念碑調査だけでなく、式典視察やインタビューを実施し、公定記憶に抑圧されてきた占領地の戦争記憶の一端に触れることができた。記念化されていないドイツ軍墓地や地下基地跡と合わせて、占領地における戦争記憶の諸相を調査することができた。また本調査で重要課題と位置付けていた「カティンの森」をめぐっても、現地住人のポーランドに対する微妙な感情を調査できたのも有益であった。モスクワでも、主要な博物館・記念碑の継続調査のほか、これまで目が行き届かなかった郊外のモスクワ攻防戦の戦跡を調査することができ、全体像の把握に近づいた。現在これらの調査結果を整理し、分析している。 ベトナム調査は、社会主義と戦争記憶の関係性について、ソ連の戦争記憶とイメージが相対化され、特に女性兵士と母性の表象について考察の糸口をつかめたので、非常に有益であった。 研究成果発表・研究組織活動についても積極的に行い、総じて、オルタナティブな戦争記憶についての考察を深めたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
ひきつづき戦争記念碑調査を進める。28年度はアルメニア・グルジア調査を予定し、現地協力者の協力を取り付けていたが、想定以上に現地情勢が緊迫化しているようで、情勢を見極めているところである。安全に十分な注意を払い、場合によっては、来年度以降に予定していたほかの調査候補地との入れ替えを検討するなど、選定を慎重に進める。 国際会議での発表、英語での論文執筆に力を入れ、国際的な研究成果発信に努める。またこれを通じて、英語圏の研究者との連携を深め、国際的な研究協力体制の構築に努力する。 国民への成果の還元として、これまでの研究成果をまとめ単著として刊行することを目指す。
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Causes of Carryover |
海外調査に係る旅費の節約に努めたため、未使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
未使用額については、海外調査に係る旅費に使用する。
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Research Products
(3 results)
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[Book] Far East, Close Russia: The Evolution of Russian Culture - A view from East Asia(女性兵士の語りと表象:戦争神話とアレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』2015
Author(s)
Dmitrii BADALIAN, Kyoo Yun CHO, Jin Seok CHOI, Bora CHUNG, Boris EGOROV,Valerij GRETVHKO, Junna HIRAMATSU, Akiko HONDA, Soo Hwan KIM, Boris LANIN, Shiho MAEDA, Takashi MATSUMOTO, Tadashi NAKAMURA, Hye Hyun NAM, Susumu NONAKA, Young Eun PARK, Isina SHATOVA, Satoko TAKAYANAGI, Naoto YAGI
Total Pages
270 (184-198)
Publisher
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