2015 Fiscal Year Research-status Report
常態化した紛争が生成する新たな社会関係:メキシコ先住民運動を結節点として
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15KT0130
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
佐々木 祐 神戸大学, その他の研究科, 准教授 (90528960)
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Project Period (FY) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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Keywords | 紛争 / 移民 / 先住民 / 暴力 / 社会運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、まず紛争下の社会状況における共同性構築に関して予備的研究を行なった。具体的には、平和構築や人的安全保障に関する理論・実証研究をサーヴェイするとともに、当該研究が対象とするメキシコ・中米における事例研究や関連情報の収集・分析を行なった。ここから明かになったのは、次の二点である;1) 紛争状況にある社会において、フォーマルな領域外に多様な社会関係が生成するという共通性 2) 一方で、そうした諸関係が公的な領域をある種の共通回路として結合しうるという可能性。ただし、本研究が対象とするメキシコ社会においては、第一点はもちろん確認されたものの、公的統治の不全およびそれに対する社会的不信のため第二点の要素はきわめて弱いことが明白になった。 次に、年度末にメキシコ合衆国において10日間ほどの調査を実施した。関係者への調査と資料収集がその目的である。聞き取りにおいては、当該研究に関する情報を収集している「記憶寛容博物館」研究員に数次にわたって面談を行ない、現在進展中の社会関係再構築の様相について情報提供を受けるとともに議論を行なった。また当該対象者からは、今後の調査に必要なインフォーマントの紹介も受けた。さらに、メキシコ国立自治大学資料館などで関連資料の収集にあたった。こうした調査の結果、極端な政治からの撤退(棄権や情報遮断)の傾向が社会的に強まりつつあることと、形成されつつあった各運動組織間の連携がそうした潮流のなかで再び脆弱化する危険性があることも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は基本的には研究計画通りに進展しているといえる。まず、予定していた予備的調査についてはほぼ所期の成果が達成されており、次年度の研究に向けての基本的な視座が得られた。ただし、次に説明する事情で海外文献の収集がやや不足したため、他の事例との比較検討を行うことでそれを質的に補った。 また、予定通り海外調査を一度実施したが、体調不良のため期間を短縮せざるをえなかった。そのため聞き取りおよび収集した資料が予定より少なくなってしまったものの、必要な情報と事例は入手することができた。また、今後の研究遂行に必要な人間関係の構築については予定通り遂行できている。 以上の事実から、研究はおおむね順調に進展しているといえるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度以降も基本的には計画通りに研究を遂行する予定である。28年度は調査期間をやや延長し、上述の問題(27年度調査期間の短縮)を解決するとともに、より深い質的調査を実施する。また、これまで得られた知見を、論文および口頭報告として発表し、より広い学的文脈において議論を行なう予定である。 また、27年度の予備的研究を経て、28年度以降はより先住民運動に焦点をしぼった研究調査を行なう。まず、政治・社会的変動のなかで、諸運動組織間の連携が弱まりつつあることが確認されてはいるが、そうした分断状況のなかである紐帯としてチアパス地域先住民運動が機能していることは確かであり、その具体的な様相について調査を進める。また、実際にチアパス地域における先住民共同体においても調査を行ない、その社会変容についても分析を行なう。
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Causes of Carryover |
すでに述べたように、当初の予定よりも海外調査期間を短縮せざるをえなかったため、その分の経費(旅費、滞在費、資料など諸経費)を次年度に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度の海外調査期間を計画より延長することにより繰越した助成金を使用する。具体的には、8月から9月前半にかけて、および翌2月から3月にかけて調査を行なう予定である。 前半では主にチアパス地域において先住民共同体の調査を行なうとともにCIESASなどでの文献収集を行なう。後半では主にメキシコシティなど都市部において住民運動の調査を行なう。
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