2016 Fiscal Year Research-status Report
常態化した紛争が生成する新たな社会関係:メキシコ先住民運動を結節点として
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15KT0130
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
佐々木 祐 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (90528960)
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Project Period (FY) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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Keywords | 先住民 / 社会運動 / 移民 / 難民 / エスニシティ / 支援 / 連帯 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年8月13日から9月1日まで、メキシコ合衆国現地調査を行った。計画では、タバスコ州テノシケにある移民避難所La Casa Albergue 72を訪れる予定であったが、より緊急性の高い難民申請者の実情を知るために、調査対象をメキシコシティのCasa Tochanに変更した。聞き取りおよび参与観察の結果、治安・経済要因により「さしあたり」自国を脱出した中米移民が、移動の課程で暴力・周縁化および支援・連帯の二重の社会構造を経験するなかで、不断に自らの存在や行方について検証を強いられていることが明らかとなった。そもそも、否定的な現実への否定的対応としてあらわれる「移民」という行為にあって、その当初の「意図」を保持し続けることは困難である。ましてや、さしあたっての「上がり」であるアメリカ合衆国にたどり着くまでには、長い時間と艱難辛苦をくぐり抜けることが必要不可欠であれば、そうした一貫した「主体」として自己を維持することはできない。こうした課程において、あるものは難民として生きることを、またあるものはテンポラルな滞在者として、またあるものはメキシコにおける非正規労働者として生きることを選択するようになる。このように、一様に「北(アメリカ合衆国)」をまなざして移動を続ける移民の流れの近傍に、別様の流れや滞留が生じていることの実証的データが得られた。成果の一部は『Contact Zone』誌において発表した(近刊)。 また、2017年1月には、計画通りチアパス州にてサパティスタ民族解放軍および全国先住民議会主催の会議にも参加し、大統領選へ向けた新たな運動方針が採択される課程についても調査を行った。その際、依然としてメキシコ国内における運動(とりわけ強制的失踪者および移民)との連携が強く志向されていることが改めて観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度も研究計画に沿っておおむね順調に進展している。ただし、昨年度の成果をうけ、本年度は移民支援よりも難民支援に特化して調査を実施したという小さな変更点があった。 調査によって、当初みこまれていた成果(先住民運動を結節点とした新たな運動ネットワークの形成)に関する実証的データが得られただけでなく、特にメキシコにおける移民・難民たち(主に中央アメリカ出身者)の生活や社会関係についての詳細な聞き取りデータが得られたことは特筆すべき成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に、当初の計画を遂行する形で研究を続ける。大きな変更はいまのところ特にないが、新たな調査対象(紛争・失踪被害者支援)についても十全な調査結果が得られるよう現在調整・準備中である。
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Causes of Carryover |
まず、海外調査の期間が、諸般の事情により当初の研究計画よりやや短くなったため、旅費として申請した額に差異が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度はより長期の調査を行う予定であるため、差額を含めた予算は予定通り使用できる見通しである。
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