2018 Fiscal Year Research-status Report
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15KT0132
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
廣瀬 陽子 慶應義塾大学, 総合政策学部(藤沢), 教授 (30348841)
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Project Period (FY) |
2015-07-10 – 2020-03-31
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Keywords | 凍結された紛争 / 未承認国家 / ハイブリッド戦争 / 狭間の政治学 / 安全保障のジレンマ / グランド・ストラテジー / 地政学 / 歴史認識 |
Outline of Annual Research Achievements |
H30年度は予定通りに研究を進められ、著書、単著、論文、国際会議や国際ワークショップなどにおける発表と、様々な形で、国内外に多くの研究成果を出せた。日本国内では、実際に政策提言などによって、日本の対外政策に研究の成果で貢献をすることができたし、海外からの反響もとても大きかった。研究を進める上で、海外の研究所や大学との連携を深めてゆくことができたことも、H30年度の大きな成果であった。 H30年度は、凍結された紛争の多面的理解のために、未解決の国境・領土問題や、凍結された紛争になることを回避できた事例、凍結された紛争を生み出したり、より効果的に温存する上で利用されてきたハイブリッド戦争などの分野にも視野を広げた。 これまで行なっていなかったアジアでの調査にも乗り出し、ウズベキスタン、北方領土の国後島・色丹島、ベトナムで調査を行ったり、研究者などと議論を交わしたりして、アジアからも本課題を検討した。凍結された紛争が解決されない状況には、歴史背景が大きな影響をもたらしていることが改めて明らかになり、とりわけアジアの事例では歴史認識の問題が極めて重要な要素になっていることが分かった。 加えて、凍結された紛争がロシアのグランド・ストラテジー側面に注目し、ユーラシアのパワーゲームを中国・ロシアの関係から検討する研究も行なった。本問題は現在進行形で、凍結された紛争にも影響を与えつつ、より複雑な状況を呈しているため、研究を継続してゆく。 最後に、凍結された紛争を抱える国の内政は、凍結された紛争の存在によって大きな影響を受けている。凍結された紛争を抱える国の選挙や政変については、その動きにおける凍結された紛争の影響に着目する必要があると考え、アルメニア政変および総選挙、アゼルバイジャン総選挙、ジョージア大統領選挙、モルドヴァ総選挙、ウクライナ大統領選挙について細かく検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定通りに行かなかった部分もあるが、全体としては、研究はおおむね順調に進捗していると考えている。 まず、H29年度に進め、H30年度にEurope-Asia Studies誌の特集号で研究成果を発表するとしていたドイツのIOS(The Leibniz Institute for East and Southeast European Studies)を拠点にした「サイレント・コンフリクト(凍結された紛争と同じ現象を指すが、共同研究参加研究者で議論をした結果、最適な用語だということになった)」に関する共同研究については、すべての論考が集まらないため、未だに特集号が刊行されていない状況にある。 また、H28年度に予定していた韓国、台湾での現地調査、およびH29年度に予定していた東ティモールでの現地調査がH30年にも実施できなかった。大学の業務などで時間的余裕が取れなかったことが最大の原因であるが、凍結された紛争にならなかった内戦事例として考えたベトナム・東ティモールについては、まずは事例として一つ検討すればいいのではないかと思ったことも理由である。H31には未だ実施できていない調査を行いたい。 とはいえ、H30の計画として掲げていた北方領土(国後島・色丹島)やベトナムでの調査ができたほか、理論的なアプローチに加え、凍結された紛争を抱えている国の内政分析なども行うようにし、検討をより多面的に行えたことから、研究の幅はより深く、広くなり、当初の計画より、より包括的な研究ができたと言って良いだろう。 このように、当初の予定を達成できなかった点もあるとはいえ、新たに計画に追加した研究によって、その不足を十分に補う成果を出せたと考えている。そのため、H30年の成果をトータルとして考えれば、研究はおおむね順調に進捗していると言って良いだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
H31年度は本研究の最終年度となるため、研究を継続しつつ、まとめの作業を進めてゆく。 今年度も、フィンランド、スウェーデン、ハンガリー、スロバキア、ロシア、米国を初めとした欧米の研究者との共同研究を継続しながら、引き続きアジアにも目を向け、より包括的な研究を行う。欧州の研究者との共同研究としては、ウクライナ危機の問題と凍結された紛争を絡めた研究を継続して行うとともに、それらと密接に絡んでいるハイブリッド戦争についても研究を深めてゆきたい。 他方、アジアの事例についても研究を進めてゆく予定であり、北方領土に関する研究を継続して行いつつ、台湾、韓国での現地調査を行いながら、中台関係、朝鮮半島問題なども重要な事例として検討したい。余力があれば、本来H30年度に調査を予定していた東ティモールでの調査も行いたいが、東ティモールについては、凍結された紛争になることを回避できた事例であるので、あくまでも余力があった場合の検討材料としたい。 他方、H31年度にも新たな国際的な展開も生じうるので、柔軟に研究計画を調整しながら、より長期的な視点で、効率性と研究成果の有益性を最優先しつつ、最良の研究の成果を出してゆく所存である。研究成果については、国際会議での報告、論文、著書などで広く公開してゆくとともに、政策にも影響を与えうる形で発信をしてゆきたい。 また、本研究は今年度で最終年度となるが、今年度で本研究の全てが終了するわけではない。凍結された紛争が解決する展望は当面は描けないのが実情だ。そのため、本研究をより良い形で継続してゆく必要がある。そこで、本研究が継続できるような形で、研究協力関係を維持しつつ、次の研究にステップアップできるような形で本研究をまとめ上げたい。
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Causes of Carryover |
本研究は、「凍結された紛争:その予防と積極的平和の模索」を研究課題としているH28年度からH30年度までの科学研究費・国際共同研究促進基金の課題と不可分の関係にあり、研究に必要な調査や必要文献などもかなり重複していることから、本資金で想定していた支出予定額を別資金で支出した部分が生じたことにより、次年度に繰り越す資金が出てしまった。 本繰り越し資金については、今年度に延期したアジア地域での現地調査の費用や成果発表の費用として使用することを予定している。
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Research Products
(22 results)