2015 Fiscal Year Research-status Report
アルカン合成関連酵素の構造ゆらぎ制御に基づく遷移状態制御
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15KT0139
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
新井 宗仁 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (90302801)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 勇樹 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (90444059)
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Project Period (FY) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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Keywords | タンパク質 / 酵素反応 / 分子動力学 / NMR / バイオエネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、酵素反応の遷移状態を制御(安定化)して酵素を合理的に高活性化する方法の開発が急務であるが、最近、酵素反応における遷移状態の形成速度は、酵素の構造ゆらぎによって決定されることが明らかになってきた。そこで本研究では、バイオエネルギー生産の鍵となるアルカン合成関連酵素AARとADをモデルとし、実験と理論の両アプローチから酵素の構造ゆらぎを制御して、バイオエネルギー生産の高度化に必要不可欠なAARとADの高活性変異体を創出することを目指す。平成27年度は次の成果を得た。
(1) ADの大域的な構造ゆらぎを理論的に可視化するために、分子動力学シミュレーションを行った。その結果、ADの機能発現に重要と考えられる構造ゆらぎを検出することができた。(2) ADの大域的な構造ゆらぎを実験的に可視化するために、NMR法を用いて緩和測定を試みた。これまでに、良好なNMRスペクトルを得ることができ、NMRによってADの構造ゆらぎを可視化できることが示唆された。
(3) 8種類のラン藻に由来するAARとADの活性を比較した結果、活性の高いAARとADを同定することができた。また、由来する生物種に応じてAARの基質特異性が異なることが見出された。(4) AARの様々な部位に41種類のアミノ酸置換変異を導入した結果、AARの活性や可溶性などを決める上で重要な部位の同定に成功した。(5) AARの理論計算を行うためには、AARの立体構造を決定する必要がある。そこでX線溶液散乱法によってAARの構造解析を行った結果、理論的な予測構造とよく一致していたことから、予測構造の妥当性が検証された。(6) ADの網羅的なアラニンスキャン変異解析を、AD全長の65%の部位に対して行った。その結果、ADの活性を向上もしくは低下させる変異部位が多数同定された。これらの結果は今後、新たな遷移状態制御法を探索する上で重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
AARとADの実験的研究については、かなり多くのデータが得られ、当初の計画以上に進捗している。また、分子動力学シミュレーションによる大域的な構造揺らぎの制御は、順調に進展している。一方、QM/MMを用いた局所的な構造揺らぎ制御については、ADが2個の鉄原子を結合する蛋白質であるため、やや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、実験、分子動力学シミュレーション、及び、QM/MM計算の3つのアプローチによって多面的に研究を進めることにより、計画通りに進捗しないリスクを低減し、AARとADの高活性化を確実に遂行する計画になっている。QM/MM計算は今後も試みる予定であるが、今後は、計画通りに進捗する可能性の高い手法(実験と分子動力学シミュレーション)にウエイトを置いて研究を進めていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
本研究では3つのアプローチによる研究項目が存在しているが、そのうちの一つ(QM/MM計算)による局所的な構造ゆらぎの可視化と制御についての研究項目にやや遅れが生じたため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額については、平成28年度に、局所的な構造ゆらぎの可視化と制御についての研究項目を遂行するために使用する予定である。ただし、この研究項目を遂行することが困難な場合には、多くの物品費が必要となる実験的研究のために充てたいと考えている。
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