Research Abstract |
本研究の主題は,量子計算機の実現が公開鍵暗号および秘密鍵暗号にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることである.今年度は,以下の二つの研究課題に取り組んだ. 第一に,最短ベクトル問題の困難さに安全性の根拠をおいた暗号系に対する安全性評価を行なった.具体的には,最短ベクトル問題を量子計算機によって解く際に,以下の二つの部分問題に分割し,それぞれに対して研究をおこなった.すなわち, 1.最短ベクトルの存在範囲 2.絞り込んだ範囲における最小値探索問題の効率的なアルゴリズム, の二つの問題である.1.に関しては,数値実験および理論評価により存在範囲の絞込みに関して,ある一定の知見を得た.理論的評価においては,短いベクトルが与えられた時に,その値を基にして,最短のベクトルの範囲の評価式を導出した.数値実験による評価においては,比較的小さい問題に関して,LLLアルゴリズムを適用し,パラメタ設定と計算時間の評価,存在範囲の広さに関して,考察を行なった.その結果,δ=0.9程度に設定することが,最適であることを明らかにした.2.に関しては,Groverのアルゴリズムを改良することにより,最小値を求める量子アルゴリズムの提案を行なった.このアルゴリズムは,Bulk量子計算機という計算機のクラスで機能する. 第二に,素因数分解の困難さに安全性の根拠をおく暗号の安全性評価を行なった.Shorの素因数分解アルゴリズムにおいて,その構成要素として量子加算を用いる方式を対象として,研究を行なった.この方式に対しては,近似を用いることにより,計算量を削減する方式が提案されている.素因数分解アルゴリズムの構成要素である加算剰余演算に着目し,近似を導入した時の加算剰余演算の成功確率を厳密に評価した.その結果,近似精度をkとおいた時に,成功確率は,1-3pi^2/4^kであることを明らかにした.
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