Research Abstract |
本研究の主題は,量子計算機の実現が公開鍵暗号及び,秘密鍵暗号にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることである.そこで,本年度は最短ベクトル問題の困難さに安全性の根拠をおいた公開鍵暗号系に対する安全性評価を行なった. 最短ベクトル問題に対しては,古典・量子を問わず,多くの研究が行われている.この問題に対する量子アルゴリズムとして,提案されているほとんどのものは近似アルゴリズムであり,真に最短のベクトルを探索するアルゴリズムは考案されていない.そこで,古典アルゴリズムと量子アルゴリズムを組み合わせることで真の最短ベクトルを探すアルゴリズムを提案した. 提案アルゴリズムは次の2つのステップからなっている.最初に,最短ベクトルの探索範囲を古典計算機上で決定する.そして,固定した探索範囲内から,真の最短ベクトルをDurrとHoyerの最小値探索量子アルゴリズムを用いて探索する. 量子計算機を用いて最小値の探索を行う際の計算量は,探索空間のサイズに依存する.そのため,探索範囲をより限定するほど,最短ベクトルを高速に発見することができる.探索範囲の素朴な決定法として,入力した基底の中の最短ベクトルの長さを利用することが出来るが,より小さい探索範囲を決定する方法として,我々は,LLL簡約基底の最短ベクトルの長さを用いることを提案した.LLL簡約基底を計算するアルゴリズムは,パラメータδによって,計算時間と出力ベクトルの長さとのtrade offが制御される. 我々は,LLL簡約基底計算アルゴリズムのパラメータδを用いて,提案アルゴリズム全体の計算量を詳細に評価し,計算量を最小にする値を理論的に評価した.その結果,最適となるδと,その際の計算量が明らかとなった. 数値実験によると,提案方式は,前述した素朴な方法よりも一般に高速である.しかしながら,現時点では,最良の古典アルゴリズムの計算量を上回ることはできていない.
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