Research Abstract |
細胞型プリオンの構造に基づいて,その構造を安定化し,構造変換への障壁を高め,スクレイピー型への変換を抑制する物質をデザイン・設計した。さらに,抗プリオン薬に関する新しいin vitroスクリーニング法を構造生物学的方法に基づいて確立するとともに,プリオン蛋白質のどのアミノ酸部位に結合することが,低分子化合物にとって有効な抗プリオン作用を発揮するのに必須であるかを実験的に明らかにし,一層最適化された強力な抗プリオン薬を開発するための方法論を確立した。その結果,以下の知見が得られた。1.有効な薬剤とプリオンとの結合をSPRで調べた結果,有効な薬剤は基本的にPrP^cと結合することが確認できた。2.有効な薬剤を実際に有機合成したところ,その誘導体の一部に同様の効果が認められた。3.類縁体に関しては,PrP^cに対する結合定数とIC_<50>との間に相関がみられた。4.プリオンの構造変換過程を粗視化モデルを用いてシミュレーションすることに成功した。5.マウスを用いたin vivo感染実験を行い,治療効果を調べた。その結果,有意な延命効果が得られた。 PrP^cと結合することにより異常構造への変換が抑制されることが分かったので,今後は有効な誘導体とPrP^cとの最適な結合構造を明らかにし,構造変換メカニズム解明とより有効な治療薬開発へとつなげる必要がある。プリオンの感染実験はP3施設等の安全設備を有する場所で行う必要があるが,計算機シミュレーションは,通常のラボで行えるため,今後,感染症研究の重要なツールになる,と考えられる。in vivo感染実験には,ADME等の複雑な要因が絡んでくるため,薬剤構造塗さらに最適化する必要があるが,今後は,さらに臨床応用に向けた治療薬開発に取り組んでいきたい,と考えている。
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