Research Abstract |
正常型プリオンは,立体構造変換を起こし,異常型(感染型)構造に変化する。平衡測定では,正常型と変性型の自由エネルギーの差は約8.0kcal/molあり,正常型プリオンは,必ずしも熱力学的に不安定とは言えないことが分かった。次に変性状態から正常型への巻き戻り過程の反応速度を解析した。通常のストップト・フロー法では不感時間内に反応が終わってしまうので観測できないが,連続フロー法を用いることにより,この巻き戻り反応の時定数が,常温で約100マイクロ秒であることが分かった。 高圧NMRを用いて,これらの過程を原子分解能でつぶさに観測すると,B及びCヘリックスにある特定のアミノ酸残基の熱安定性が低いことが分かった。さらに,核磁気共鳴法(NMR)法により,プリオンのマイクロ秒からミリ秒の遅い揺らぎが,同様の部位,すなわち,B及びCヘリックスにおいて集中的に観測された。 これらの現象は,プリオンの構造形成過程超早期において,中間体が形成される可能性を示唆している。さらに,高圧NMRで見られた化学シフトの変化のうち圧力に線形に依存する部分と,揺らぎによる化学シフトの変化との間に良い相関がみられた。この事実は,遅い揺らぎが,天然構造の範囲内で起きていることを示している。このことはさらに,位相空間で考えた場合,プリオンの構造転換に関与する初期の構造変化が,天然構造におけるダイナミクス,さらには熱安定性へと接続できることを示唆している。このような結果を踏まえ,プリオン立体構造形成過程の超早期過程(ナノ秒オーダー)を特徴付けるための,レーザー励起による温度ジャンプ観測システムを,現在構築しているところである。
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