Research Abstract |
タンパク質の振動スペクトル,特にアミドIバンドが,その構造や周辺分子との相互作用に敏感であることは,古くから知られているが,現在のところ,溶媒を含む構造・ダイナミクスのデータから振動スペクトルを完全に予測できるレベルにまでは至っていない。周辺の水分子と相互作用したタンパク質の振動ダイナミクスが,電子的な面とメカニカルな面の両方の意味で協同性をもっているために,部分ごとの振動ダイナミクスの単なる集合として見なすことはできないことが,その理由の1つと考えられる。そこで,この協同性に由来する諸性質を明らかにし,構造とスペクトルの関係をさらに明確にするために,ペプチド基のモデル分子の1つであるN-メチルアセトアミドのクラスターを対象に,理論的解析を行った。 その結果,分子間静電相互作用に与る静電場が,協同効果を説明するのに十分な程度に増大していることが,明らかとなった。そして,この静電場の増大が起こるメカニズムとしては,以下の3つのファクターが重要であることが分かった。(1)各分子が最近接分子から直接受ける電場は,水素結合鎖が長くなるに従い数パーセント増大する。これは,水素結合鎖が長くなるに従って水素結合長が若干短くなるためである。電場の増大の程度は,双極子間相互作用を仮定したモデルで定量的に説明できる。(2)トリマー以上の水素結合鎖では,最近接以外の分子から直接受ける電場を考慮する必要がある。このために,各分子が受ける電場の大きさは,最大16%程度増大するが,これは双極子を配列したモデルにより良く説明できる。(3)最大46%程度になる電場増大の残りの部分は,離れた分子どうしに働く静電相互作用における,中間に位置する分子の分極の効果に由来すると考えられる。この因子による電場の増大は,dipole-induced dipole(DID)モデルにより,良く説明できる。
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