Research Abstract |
シガテラ食中毒の原因物質の一つであるマイトトキシン(MTX)は,渦鞭毛藻が生産する梯子状ポリエーテル天然物の一つであり,二次代謝産物の中では最大の分子量および最強の毒性を有している。MTXの構造決定は,複雑な構造ゆえ長い年月を要し,発見以来20年以上経過した現在でも,作用標的分子は明らかになっておらず,分子レベルでの活性発現機構の解明が重要視されている。MTXの疎水性部分に相当するWXYZA'B'C'環部は,コンポメーションの自由度が大きい二つの中員環と1,3-ジアキシアルの位置に並ぶ角間メチル基が数多く存在するため,構造決定上困難を伴った部分である。また,この部分はMTXのラット細胞内カルシウムイオン流入促進作用を阻害するブレベトキシンBの骨格と類似した構造をしており,活性発現(膜蛋白質との相互作用)に関与している可能性が高い部分でもある。さらに合成化学的に見ても,このような角間メチル基を多数有するポリエーテル骨格を合成した例はほとんどなく,興味深い合成標的である。そこで,この合成的に困難であるMTXのWXYZA'B'C'環部を化学合成し,その化学構造を確認するとともに,天然のMTXの生物活性に対する阻害作用を評価することを研究目的とした。すなわち,当研究室で開発したα-シアノエーテルを経由する収束的な合成法を用いてまず,Z環セグメントとW環セグメントからアセタール化とアセタールの位置選択的開裂を行い,α-シアノエーテルへと誘導し,WXYZ環セグメントを合成することに成功した。続いてこのWXYZ環セグメントとC'環セグメントからα-シアノエーテルへと導き,閉環メタセシス,還元的エーテル化を経て,目的のWXYZA'B'C'環部の収束的合成を達成した。合成品のNMRスペクトルは天然物と良い一致を示し,MTXのこの疎水性部分の化学構造が正しいことが証明された。
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