Research Abstract |
真核生物鞭毛の運動の基本は,鞭毛軸糸を構成する9本のダブレット微小管間に起こされる滑り運動であり,この滑りは,ダブレット上に並ぶダイニンが力を出すことによって起こされる.鞭毛内にある多種類のタンパク質は周辺制御因子としてダイニンのdynamic statesをモジュレートすることにより,屈曲形成にカップルしてダイニンの活性を制御し,その結果振動運動が時間空間的に巧みにコントロールされていると考えられる.本研究では、ダイニンの特性をモジュレートする生理的条件および鞭毛の振動運動の発生に関わる要素を解明すると共に,ダイニンの活性制御に最も重要なダイニン結合制御因子と中心小管/スポーク系の分子構築を解明することにより,振動運動を生み出すダイニンのdynamic statesの制御機構を明らかにすることを目指している.平成16年度においては,まずウニ精子鞭毛を用いて,屈曲が微小管滑り運動の制御に及ぼす効果を解析した.振動運動の基礎となる両方向の屈曲形成は,微小管の滑りが中心小管の両側で切り替わることにより誘導されると予想されていたが,このことを実験で初めて証明することに成功した.さらに,クラミドモナス鞭毛のダイニンを用いた解析から,ATPと共にADPが存在するとダイニンの滑り活性が上昇することが明らかとなった.また,ホヤ精子を用い,鞭毛タンパク質のプロテオーム解析を行なう基盤を確立し,外腕ダイニンのサブユニット全ての同定(投稿準備中),およびラジアルスポークのsubcomplexを構成するタンパク質の同定に成功した.さらに,スポークヘッドのタンパク質LRR37が中心小管と相互作用している可能性を示唆する結果を得た.今後は,ウニ,クラミドモナス,ホヤの鞭毛について得られた知見の融合をはかりながら,ダイニンの活性がヌクレオチド,中心小管および屈曲を介して制御される過程を詳細に解析する.
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