Research Abstract |
免疫系をもたない植物は,外敵(病原体や昆虫)から身を守るための独特のシステムを獲得してきたと考えられる.私達は,傷害によって小胞体(ER)から誘導されるオルガネラを見出し,ERボディと命名した.ERボディは,アブラナ科植物の根と子葉の表皮には恒常的に存在するが,植物体の成熟葉には存在しないという特徴を持つ.しかし,成熟葉に虫害や人為的な傷害を与えるとERボディが誘導されてくる.ERボディは外敵に対処するために植物が備えている全く新しい生体防御機構の一つとみなすことができる.本課題研究では,この新規の生体防御システムの分子機構を明らかすることを目的としている. 小胞体局在型GFPを発現させたシロイヌナズナの子葉や根では,紡錘形のERボディは独特の蛍光像として容易に可視化できる.この形質転換体を変異原処理しGFP蛍光パターンの変化を指標として,ERボディの形態形成や細胞内の存在状態に異常を示す変異体を複数選抜した.今年度はこの内3つの変異体について解析を進め,次の成果を得た. (1)nai1と命名した変異体はERボディが全く形成されない.原因遺伝子はbasic-helix-loop-helix型転写制御因子であった(Plant Cell,2004).この変異体のアレイ解析を行い,β-glucosidase(Pyk10)とJacalin-like lectinsの発現が抑えられていることが分かった.Pyk10はERボディの主要タンパク質である.一方lectinは細胞質ゾルのタンパク質で,Pyk10とは異なる細胞内局在性を示したが,両タンパク質は互いに親和性を持ち,lectinはPyk10の活性化に関与していることが分かった.即ち,傷害を受けた細胞が破壊された時に,lectinの働きによってPyk10が活性化されるという系が働いていることが示唆された(Plant Cell Physiol,2005). (2)細胞内でERボディが凝集する変異体肋katamari1(kam1)の原因遺伝子産物Kam1はゴルジ体膜に局在するタンパク質で細胞質のアクチンと相互作用することによる細胞内膜系の維持に関与していることが分かった(Plant Cell,2005). (3)ERボディが異常に巨大化する変異体の原因はPyk10タンパク質の変異によることが分かった(未発表).
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